母 芽衣の述懐-3
「でも、その真奈美っていう人、
お袋たちのことを少しも助けようともしなかったの?」
「そうよ。コーチとしながら見てたってことは、共犯っていうことでしょ?」
「違うのよ。真奈美ちゃんは、コーチに頼まれたの。
お母さんたちが体験したがっているって。
それはもちろん嘘なんだけど。
で、お母さんたちが恥ずかしがらずに安心してセックスできるように、
協力してくれってコーチに言われて。
それを信じてわたしたちの前でコーチに抱かれてたの。」
「そんなこと、普通、信じないでしょ?」
「普通はね。でも、真奈美ちゃんは、
人を疑うとか、人を騙すなんていうこと自体を知らない子だった。
ものすごく純真で、純粋な心の持ち主だったのよ。
だから、わたしたちにセックスを安心して体験させてあげようとしてくれたのよ。
真奈美ちゃんなりに、必死でね。」
「じゃあ、その真奈美ちゃんっていう子を騙したコーチが悪いんだね?」
「そうね。そうかもしれないわ。
お母さんも一時期、そのコーチや3人の先輩を恨んだもの。
ううん。真奈美ちゃんのことだって恨んだわ。
2年もの間。
真奈美ちゃんがどんな子なのか、何を考えていたのか、それを知るまではね。」
「………。」
「そのことがあってすぐに、千遥ちゃんは転校してしまった。
夏休みの間にね。そしてずっと音信不通。
お母さんは、しばらくの間ノイローゼみたいになって。
死のうと考えたこともあったわ。
それからいろいろな治療も受けたし、いろいろな薬も飲まされた。
その薬の副作用で、妄想を見るようになったりもして。」
「………。」
「気がついたら全裸で道に立っていたこともあったわ。
股間にはインターフォンの子機が刺さってた。
セックスに溺れたというのとは違うの。
セックスに支配されたのよ。精神が。」
「それが副作用?」
「そう。でも周りから見ればただの淫乱娘よ。
わたしは精神を病んでます、なんていう札を下げてる訳じゃないんだから。
学校にも行けなくなったわ。だって時と場所を選ばずに幻覚が見えるようになって。
すぐにその場でオナニーを始めちゃったりするからね。
そしてとうとう自殺を図った………。
幸い、母親に発見されて命は助かったけれど、それからもずっと治療。
薬や治療の副作用で記憶の一部もなくしてしまったわ。」
さすがの芽衣も過去のつらい思い出がよみがえってきたのか、口ごもった。
それを見かねて雅和が助け舟を出した。
「芽依。そのことはまたの機会でもいいだろう。」
「そうね。ついつい話が脱線するのはあなたに似たのかしら。」
「おいおい。ぼくのせいなのかい?」
「本題に戻るわね。まあ、初体験はそういうこと。3人の先輩にレイプされました。
でもね。実はそのときに、女の悦びも知ってしまったの。」
「女の悦び?」
「そう。簡単に言えば、レイプされていながら、いってしまったのよ。
犯されているうちに、自然と腰が動き始めて。」
「自分から?」
「そう。一緒に犯されていた千遥ちゃんが自分から男たちのものを掴んで、
騎乗位で跳ねているのを見て。」
「千遥ちゃんって、いきなり?」
「そう。3人の男を相手にしてた。
そんな姿を見ていたら、わたしも我慢ができなくなって。
中から溢れ出てきた男たちのザーメンをこすりつけて、いっちゃったの。」
「………。」
「今になってだから言えることだけれど、
女の悦びを高校1年で知ることができたってことだけを考えたら、
それって幸せなことだとも思うわ。
当時はそんなこと、思いもしなかったけれど。
だから、後悔と怒りと復讐心と……。いろいろな感情に精神が負けてしまって。
残りの高校生活をほとんどを無駄に過ごしてしまったの。
でも高3の夏。わたしの人生を劇的に変えた出来事があった。」
「レイプされたことよりも?」
「そう。レイプされたことなんか、大したことじゃないって思えるような、
わたしの人生を変えた出来事があったのよ。」
「………。」
「真奈美ちゃんが……。亡くなったの。」
「真奈美ちゃん?あの、お母さんがレイプされるのを見ながら、
コーチとセックスしていた?」
「そう、その真奈美ちゃんが亡くなった。全てを綴った日記を残して。」
「事故、か何か?」
「そう。交通事故だった。」
「………。」
「その日記を読んだとき、お母さんには今までのことがすべて一つにつながったの。
真奈美ちゃんの言葉や行動、その裏にあったもの。
そして何よりも、人が一番大切にしなければならないものが何なのかを。」
「………。」
「そして思った。レイプなんて大したことではないと。」
「レイプされたことが?」
「そう。レイプされたことなんかに囚われていて、
自分のたった一度きりの人生を無駄に過ごすなんてもったいないと思ったの。
確かにつらい経験だった。あんな目にあわない方が良かったに決まってる。
でも、どんなにつらいことであっても、過去を否定することは、
その過去に生きていた自分も否定することになる。
自分なりに悩み、苦しみ、耐えてきたことさえも、否定することになる。
だったら、自分のすべてを肯定して生きようと思ったの。」