手受け式 -乙葉と浩介-(2020/02/10)-10
秋祭りの前夜。
乙葉は、母親の莉子に話しかけられた。
「乙葉、手受け式の準備はどう?
大丈夫そう?」
「うん。
大丈夫。
何回も練習したから。」
乙葉は少し頬を赤くして答えた。
「そう・・・。
それならよかったわ。」
「うん。
お母さん、気にしてくれてありがとう。」
「どういたしまして。
それでね、乙葉、あのね・・・。」
莉子が思いつめたように話し出した。
「ん?
お母さん、なに?」乙葉が不思議がる。
「これ、言おうか迷ったんだけど・・・、
やっぱり伝えておくわ。
これから言うことは、
もしもの時のためのことなんだけど・・・。」
乙葉は莉子に耳打ちされた。
「えー!
そんなこと、できないよ!!」
乙葉は真っ赤になって大声を出した。
「乙葉。
さっきも言ったでしょ。
これはね、万が一の時のためなの。
浩介くんと乙葉だから、きっと大丈夫だと思うわ。
何もなく終われば、それでいいの。」
「でも・・・。」
乙葉は納得できないでいる。
「乙葉。
お願いだから、言うことを聞いてちょうだい。
もし、もしも、さっきお母さんが言ったみたいなことになったら、
その時は、思い出してちょうだい。
本当にもしもの時のためだから。
ね?」
「・・・分かった。」
乙葉は不承不承ではあるが、頷いた。
「乙葉、ありがとう。
その時は、というか、そういう事態になったら、
おそらく、巫女さんが特別な合図か言葉を言ってくれるわ。」
「ふ〜ん・・・。」
「そうしたら、さっき話したことをしてみて。
必ず効果があるから。」
「・・・分かった。
もしそうなったら、うまくできるか分からないけど、
試してみる。」
「それでいいわ。」莉子がほっとした表情を見せた。
「ねえ、どうしてお母さんは巫女さんがそういうことを
言うかもしれないって分かるの?」
「それは、まだ秘密。
もしもそうなったら、その時に教えてあげる。」
「そっか・・・、分かった。
お母さん、おやすみなさい。」
乙葉は莉子に挨拶をすると、自分の部屋へと向かった。
* * *