竜宮城-9
両親のいない海斗。親代わりには祖父母が代役を務める。最後の挨拶では簡単ながらも愛情溢れる言葉で出席した者の胸を熱くした。
「海斗は学生時代に両親を亡くしました。私どもと暮らそうと言ったにも関わらず、海斗は一人で自宅で生きて来ました。小さな頃から変人変人だと言われて来た海斗ですが、それは彼なりに両親の思い出の残る家を一人で守って来たのでしょう。月命日には必ず墓参りを続けてる変人。我々の家にもちょくちょく寄って、生きてるか死んでるかの安否確認だと言ってますが、いつも我々の事を気にかけてくれている事は分かってます。変人ぶってるので女性なんか寄り付かないのではないかと心配しておりましたが、ようやく本当の海斗を理解してくれる女性が現れてくれたのだと嬉しく思います。海斗、幸代さん、いつまでもお幸せに!本日は誠にありがとうございました。」
そんなスピーチに海斗はもう少しで大量の涙を流しそうになったのであった。
幸代のスピーチは感極まり過ぎてまともに言葉が出なかった。海斗を好きな気持ちをどう表していいか分からなかった日々の苦しみが蘇り涙が溢れた。幸代には当然葛藤があった。海斗が好きなのに瀬奈と海斗の愛の為に努力する自分。その複雑過ぎて切ない気持ちは言葉に表す事は出来なかった。そんな幸代を支え、スピーチを最後まで支えた海斗には溢れんばかりの愛情を感じたのであった。
幸せ一色に染まった披露宴。その余韻がまだ残る中、海斗の親族席に設けられていた瀬奈の席の皿の上に置かれていたビスケットが一枚減っていた。
おめでとう…♪
人知れず会場内にふんわりとそんな声が響いたような気がする。そしてビスケットは3枚ともいつの間にか消えてなくなっていたのであった。三上瀬奈と書かれた札も、いつの間にか消えていた。