私の居場所-1
「そうか!そう言う事か!それなら引っかかっていた事が説明がつく!瀬奈のいる場所が分かった!」
瀬奈からの電話を受け海斗はハンドルを切り街方向へ向かっていた車を海に向けた。
「ふざけんなよ!?瀬奈…そうはさせないぞ!!」
海斗はスピードメーターも見ずにアクセルを踏んだ。いくら踏んでも時速40キロぐらいしか出ていないような気がする。信号など眼中になかった。事故を起こしそうになったし、人もはねそうになった。もしかしたら誰かが警察に通報したかも知れない。だが構っていられない。海斗は瀬奈の元へ向かった。
幸代は美香を拾いに海斗の家に向かっていた。
「まさか瀬奈が自殺しようとしていただなんて…」
そんな素振りは一つも見せてはいなかっただけにショックだ。しかし今思えばあれだけ穏やかすぎる瀬奈には違和感を感じた。どこか人生を諦めたような、虚脱感のある穏やかさに、康平らはひたすら元気づけようと努力していた。しかし初めから瀬奈はもう人生を諦めていたのかも知れない。電車から飛び降りて包帯だらけの姿になった時から…。
「瀬奈はどこに…?」
重苦しい様子で声を絞り出す康平。
「瀬奈ちゃんは小洗と言う町の海岸の崖から飛び降り、そして偶然海斗さんに助けられたんです。瀬奈ちゃんの人生は本来はそこで終わっていたはずでした。でも海斗さんに助けられてまた人生が動き出してしまった。海斗さんとの生活はまさに竜宮城のようだった事でしょう。穏やかで幸せな時間を過ごした後、浦島太郎は現実に帰ります。瀬奈ちゃんは竜宮城を出て、今現実に戻ろうとしているんです。瀬奈ちゃんの現実…、それは海に飛び込み人生の幕を閉じようとした瞬間に…。ですから瀬奈ちゃんが向かった場所は、その小洗の崖です、きっと。」
幸代も普段は法定速度をキッチリと守る。横断歩道で人が待っていれば必ず止まる。信号が黄色の時には無理して行かない。しかしそんな幸代でさえ、飛び出して来た猫に向かって怒鳴る程に気持ちは焦っていた。
「危ねーなっ!このクソネコぉぉ!轢き殺すわよっ!!」
と。脇に乗る康平は怖くて幸代の顔が見れなかった。
海斗の家から小洗の崖までおおよそ30分。幸代は美香を乗せ海に急ぐ。
一方海斗はあと5分で小洗の海岸まで辿り着く。まだ瀬奈がそこに居る事を願うばかりであった。
「もし海に飛び込んでたら、海の底から無理矢理引きずり出してやるからな!覚悟しとけよ、瀬奈!!」
海が見えてきた。こんな気持ちで海を目の前にするのは初めてだ。海斗はあの猛烈な台風の荒れ狂う海から瀬奈を釣り上げた。世界中で瀬奈を助けられるのは自分しかいない、そう信じている。きっと瀬奈は生きている、そう信じて車を飛ばし、とうとう海岸沿いの道路の空き地に車を停め、エンジンもかけっぱなしのまま飛び出して言ったのであった。