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THE 変人
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私の居場所-7

「環境性人格障害…、それが私の病気。私はいざ病名がはっきりすると怖くて仕方がなかった。でも海斗や幸代さんは違った。私以上にこの病気に向き合ってくれ、一緒に立ち向かう勇気をくれた。私は一生この病気と付き合っていかなくてはならないと諦めてた。でも2人は違った。そんなん病気じゃない、最近はなんでもかんでも病名をつけたがるからって言ってくれた事が嬉しかった。もしかしたら海斗や幸代さんのいる環境なら私の病気は治る、そんな希望が湧いた。ずっとこっちにいたかった。私に捜索願が出てるのを海斗が知った時、それでもここでずっと暮らそうかとも思った。2人に出会って私は心を取り乱す事がなく、物凄く穏やかだった。もう病気は治ったかとも思った。その時私は新藤瀬奈として堂々と生きていきたい、そう思った。まずは有樹の妻としてもう一回頑張ってみるのが筋だと思った。海斗もうやむやなままの自分でいるより、しっかりと新藤瀬奈を生きる事を望んでたと思う。愛してた…。海斗の事は本当に愛してた…。でも海斗を愛する自分は新藤瀬奈じゃない。ただの行方不明者。これから先、病気にかかっても病院にも行けない、結婚したくても出来ない…、そうなればまた海斗と言う新たな迷惑がかかる人を増やしてしまう。海斗には迷惑かけたくなかった。もう一度やり直すと言いながらも、心の底では有樹としっかり離婚して、海斗と普通に愛し合える状況になりたがってる自分には気付いてた。だから有樹が離婚届に判を押してくれない状況に、平気なフリしてたけど、絶望した。それからは悪い方、悪い方に思考が向かって行って、やっぱり止まった時間は動かしてはいけないんだと思うようになって、やっぱり死のうと思ったの。私もう頑張れない。」

何の障害もなく海斗の元へ来たかった瀬奈が、離婚届けに判を押して貰えない事への、他人には計り知れない絶望に、特に康平と美香は打ちのめされたような衝撃を受ける。どうでもいい、そう言って素っ気なく振る舞っていた瀬奈な本当の気持ちに気付けなかった自責の念にかられていた。
「今すぐにヤツの首根っこを掴んで判を押させてやる!だから瀬奈、待っててくれ!」
必死に訴える康平だが、瀬奈は首を横に振る。
「もういいの。私は自由になりたいの。もう何にも縛られたくない…。誰も愛したくない。そうすれば私は私らしくいられるから…」
そう言って瀬奈の表情は切ない笑みを浮かべていた。

「みんな、ありがとう。お父さん、お母さん、幸代さん、海斗…、私の愛しい人ばかり。みんなに出会えて良かった。私は竜宮城へ行きます…ありがとう。」
瀬奈は満面の笑みを浮かべた。康平と美香は子供の頃の何の屈託のない無邪気な笑みを思い出した。あの頃、一人娘をどんな事から、どんな物からもこの子を自分らが守ると心に誓っていた。そんな大事な大事な娘が崖の先端でゆっくりと背後に倒れて行く。

「さようなら…」
何て穏やかな笑みだろう。とても崖から飛び降りようとしている人間の表情には見えない。背中を海に、顔を空に向けたまま、まるでスローモーションを見ているかのように、ゆっくりとゆっくりと瀬奈の体が後ろに倒れて行くのであった。

「瀬奈!!」
海斗はスローモーションの世界の中、自分だけ倍速で動いているかのように瀬奈の元へ走るのであった。


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