私の居場所-6
「暴れてる時、自制心は全くなかった。心の底から全てを破壊してしまいたい…、そんな気持ちでいっぱいだった。これだけ暴れたのにどうして有樹は死んでないの?とさえ思った。たいてい有樹が逃げ出して一人きりになった部屋でようやく頭が冷えて来て、今度は自分のしてしまった事に罪悪感を感じて…。大事にしてた食器とか見境いなく破壊する自分が怖くなった。それ以前に人を傷つけようとしていた自分が怖かった。その繰り返し…。私は頭がおかしくなりそうだった。そのうち自分がいなくなれば誰も傷つかなくて済むんじゃないかと思って死ぬ覚悟を決めた。小さい頃に聞いた竜宮城を思い出し、海の底には竜宮城があって、私は竜宮城に行って穏やかな生活を送りたいと本気で考えた。福岡からなるべく遠くに行こうと決めて電車を乗り継いで東を目指したらここに来たの…。あの日は台風が近づいてて、ここに着いた時には物凄い雨と風が吹いてて、海が怒り狂ってた。物凄く怖かった。でも荒れ狂う海を見てると、発狂してる自分を見る他人はこんな風に恐怖を感じてたんだなって思った。私はなかなか飛び込めなくて、暫くここに立ち竦んでた。雨風に吹かれて体が冷えて来て衰弱して来たその時、なんか人の声が聞こえたような気がして、とうとう幻聴まで聞こえて来たと思った。でも良く考えたら、あれはきっと海斗の声だったんだね。」
「…、確かに下らない事、たくさん叫んでたかも…。」
「私が聞き取れたのは、パヲォォーンって。」
「そ、それは神よ俺にパワーをと言おうとしたけど、寒くて口が回らずパヲォォーンって…」
「フフッ、とにかく私はもうダメだって思って、飛び込んだ。きっと飛び降りて間もなく私は気を失ったの。海に着水した記憶がないから。私の人生はそこで終わったはず。もう誰にも迷惑をかけなくて済む…、そう思ったのが最後に覚えてる事。飛び降りたのは怖かったけど、気持ちは物凄く楽だった…。それからどのぐらい経ったか分からなかったけど、誰かが近くでギャーギャー騒いでるのが聞こえて来て、何となく竜宮城には来れなかったのかなと思って目を開けたら海斗がいた。何か私を幽霊を見るような目で見てビビッてる姿がおかしかった。でも死ねなかった事にがっかりした。でも、そんな私に海斗は言ってくれたよね?お前は一度死んだんだ、今からは新しい人生の始まりだって。私ね、その言葉聞いた瞬間、私は海斗と新しい人生が始まる予感がしたの。私にとっての竜宮城は海の中ではなく海斗なんじゃないかって。正直見ず知らずの男の家に行くのは怖かった。でも助けた事を責めた私にキレて、じゃあ死ねって言って海に投げ飛ばして、でもそんな私を海から抱き上げてくれて車の中で体を温めてくれた。弱ってみたり、汚い言葉で怒りを見せた私にちゃんと向き合ってくれた。私ね、この人なら信用出来ると思った。私は海斗のおかげで生まれ変わったかのような気持ちになれたの。」
当時を思い返す瀬奈は、本当に幸せそうであった。このままなら自殺は踏みとどまってくれるかな…、そんな希望が湧いていた。