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THE 変人
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私の居場所-5

無理に距離を狭めれば瀬奈を刺激する事になる。それは全員が感じている事だ。出来る事は言葉による説得しかない。しかしこのような緊迫感の中、瀬奈を説得出来る有効な言葉がすぐに浮かぶ訳はない。一つ一つの言葉を見つけて瀬奈の反応を見ながら慎重に説得するほかなかった。
溢れる涙を拭きながら心を落ち着かせようとする瀬奈。肩を震わせながら必死で息を整えようとする。そんな瀬奈を海斗らは見守り様子を見ていた。

「私は…」
必死に声を振り絞る瀬奈。昂る気持ちを落ち着かせながら、何とか自分の言葉を見つけようとしていた。
「私は…辛かったの…。気持ちが昂ぶって暴れた後、どうして私はこうなっちゃうんだろって悩んで、悩んで、その度にもう死にたいって思った。私だってわざわざ人を傷つけたくない。私は愛する人との細やかな幸せの毎日が欲しかっただけ。それだけなのに…、どうしてだろ…うまくいかなかった。その度にお父さんとお母さんに迷惑かけて…本当に申し訳ないっていつも思ってた。」
「瀬奈…」
康平と美香は下手に言葉をかけず、瀬奈の言葉を聞いている。

「私が暴れる度に、みんなから好奇な目で見られているような気がして落ち込んだ。周りから見れば私はおかしな人間なんだなっていつも思ってた。暴れれば暴れる度に有樹は私から逃げて行った。私、分かってた。有樹が私と結婚したのは議員になると言う野望の為だって事。でも良かったの。好きな人が夢を叶える姿を一番近くで見ていられるのならって。お父さんだって弟子が大きくなる姿を見るのは嬉しいはずって。だから私は私なりに彼を支えたつもり。でも彼は私の支えなんて求めてはいなかった。彼が欲しかったのはお父さんとの繋がりだけだった。そして彼が浮気をしていると知った瞬間、目の前が真っ暗になった。小さな愛でも構わない、夫婦関係が成り立っているならそれ以上の贅沢はいらない、そう思っていた私の心のバランスが崩れた。気付いたら家の中が滅茶苦茶になってた。これ、自分がやったの?って驚いた。全然記憶になかったから。その時初めて自分の中の異変に気付いたの。それからあの女を感じる度、私は自分の感情をコントロールする事が出来なくなってしまったの…。もう決して治らないものだと思ってた。」
瀬奈が自分の病気の始まりについて話すのは初めてであった。決して語る事のなかった理由を全員がじっと見守りながら聴いているのであった。


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