私の居場所-3
一度、この崖こら飛び込んだ経験のある瀬奈が、昨日から飛び込まずにいたと言う事は、自分を見つけて欲しいと言うメッセージだと思った海斗。説得すればきっと自分の腕の中に飛び込んで来てくれると信じていた。瀬奈が跳び込むのは海ではない、自分の腕の中だと自分に言い聞かせて確信を作り上げようとしていた。
「瀬奈、頼む…こっちに来てくれ…。俺も幸代も、ご両親もみんな瀬奈を待ってるんだ。もうじき来る…」
早く来てくれ、そう願った。両親の顔を見れば最悪の事態は免れるのではないかと思った。瀬奈は悲しそうな顔をして言った。
「…私は最後の最後までみんなに迷惑をかけちゃったんだね…。お父さんだって暇じゃない。お仕事いっぱいあるし、お母さんだってそう。それに海斗だって会社休んだんだよね?幸代さんも…。私がいなければみんな普通の1日を送ってるはずだったのに、私1人のせいでかき回しちゃって…」
「迷惑だなんて思ってないから必死で瀬奈を探してたんだろ!?迷惑なら関わりたくない。会社も休まない!」
必死で語りかける海斗。すると瀬奈は笑みを見せた。
「なんか…暫く会ってなくて久々なのに、ずっと一緒にいて喧嘩してるみたい…。」
それだけ常に心の中には海斗がいたと言う事だろう。しかし海斗にそんな感覚はなかった。心の中にはやはり常に瀬奈はいたが、やはり触れ合っていないとそんな感覚にはならなかった。久しぶりに会ったのにいつも一緒にいたような気がする…、そう感じる事はできなかった。
「俺はずっと会いたかったんだ…。ようやくこうして会えたのに。もう二度と手放したくはないよ…」
「ありがとう。でも私はきっと海斗とは結ばれない。」
「どうしてだ!?」
「分かるの…。私は普通に海斗と幸せにはなれない運命。海斗に会おうとする度に必ず邪魔が入る…。それはきっと他人の妻でありながら海斗を愛してしまった罰…」
「今は誰にも邪魔されてないだろ!?」
「けど、私はまだ離婚が成立してない。だから同じなの。人の妻でありながら海斗を愛する事になる。こんな状態では決して幸せにはなれない…」
「そんな紙切れなんて関係ない!俺達、本気で愛し合っただろ!?」
瀬奈の表情が一瞬和らいだ。
「うん。幸せだったぁ…」
海斗との日々を目の前に映し出す瀬奈。その一瞬に瀬奈が望む全てが凝縮されていた。が、すぐに幸せ海風に奪われてしまった。
「私、あの時海斗に助けてもらって本当に良かった…。だって、私がずっと夢見てた幸せと安らぎに満ち溢れた素晴らしい時間を与えて貰ったんだもん。今思えば神様が与えてくれたプレゼントだったように思う。こんな人生、可哀想だから最後に夢を見させてくれたんじゃないかって。夢はいつまでも続かない。私は本当ならもうこの世にいないはずだった。だからみんなが普通の生活に戻るには私がこの世に存在してはいけないの。みんなはみんなの時間を歩んで行って欲しいから、私はもう…」
そう言って崖先に一歩踏み出す瀬奈。
「止めろ!瀬奈ぁぁ!」
海斗は喉に痛みを感じるぐらい、必死で叫ぶのであった。