急展開-8
「半年前、瀬奈が家を出て、やはりここに来ようとした事があったのは聞いてるかな?」
「電車から飛び降りて大怪我した時ですか?」
「ああ、そうだ。あの時は瀬奈を守るのは自分らしかいないと、強い使命感みたいなものを感じていた。瀬奈は私達といるのが一番幸せだと思い込んでた。もしあの時、もっと瀬奈の気持ちを良く聞いて、どうしたいのかを話し合うべきだった。そうすれば無理矢理こっちに来ようとする事もなかっただろうし、大怪我をする事もなかったはずだ。結果的に私達が追い込んでしまったようなものだ。しかし今回は海斗君に会いに行きたければ行けばいいと言っていたはずなんだが、結局信用してもらえなかったのかな…。親失格だな…」
「お父さん、あまり自分を責めないで下さい。人間って大人になるにつれてメンドクサイ事ばかり…。好きな人に素直に好きとも言えなくなるもんです。瀬奈ちゃんはご両親が大好きです。好きで好きでたまらないはずです。だからこそ本当の気持ちを言えなかったりするんです。瀬奈ちゃんにはきっと正直にこっちに行くと言えない理由が何かあったんですよ。言えない理由…」
幸代はそう言いかけて考え込んだ。
(確かに反対されている訳でもなく、行きたいと言えばご両親も行かせてくれたはずよね…。じゃあ何で黙って出てきたんだろ…。…あ!)
幸代は良からぬ事が頭に浮かんだ。しかしそれを康平の前で言う勇気はなかった。しかしそう考えると瀬奈の行動が全て納得が行く。幸代は嫌な胸騒ぎを覚えた。
「どうかしましたか?」
表情の曇った幸代を見て康平が言った。
「い、いえ…」
「何か気づいた事があるなら言って下さい。」
「…」
幸代は躊躇った。幸代自身、動揺が隠せない。幸代は路肩に車を停め、重そうな口を開く。
「お父さん、瀬奈さんはこっちに何をしに来たんでしょうか…?」
「そ、そりゃあ海斗君に会いに…」
「ならどうしてとっくに着いているのにも関わらず海斗さんの前に姿を現さないんでしょうか…。何故反対している訳でもないのに書き置きして黙って家を出て来たんでしょうか?いなくなった事がバレるのを遅らせるような工作までして…」
「な、何でだろう…」
幸代は一呼吸おいてから言った。
「瀬奈さんは動き出してしまった時間を再び止めようとしているのではないでしょうか…」
「動き出してしまった時間を再び止める…?どう言う事ですか…?」
幸代は震える手でスマホを取り出し、海斗に電話した。