お義姉さん、お先にデビューさせて頂きます……安西浪子の突っ走り-10
リビングに着くと、浪子は柴田の差し出したバランタイン30年を引ったくるように受け取り、タンブラーへ並々と注いだ。
加水もせずにぐいっと、半分近く飲み下した浪子の目が潤んでいるのは、酒の強さのせいばかりではなさそうだ。
朱代も柴田の作ってくれたオンザロックを一口舐めると、
「あんたたちは下がって休んでいてくれていいよ」
忠義なたった二人の腹心を労って、浪子と二人だけになった。
「安西に、追い出されたの」
浪子は言った。
既にタンブラーが空っぽになっていた。
「そればっかりか、あの人……解散するって。声明出すより早く、頭つるつるに剃っちゃって、出家するつもりみたい」
やけくそ気味に笑う浪子だ。
返す言葉が見つからず、朱代は酒をあおった。
「あたしがバカだから、めちゃくちゃなことになっちゃった……」
悲しさが極まると、泣くより笑うしかなくなるのかもしれない。
あは、あははと、涙をこぼしながらも心から可笑しくてたまらないというように浪子は哄笑し、また酒を手酌で足した。
「梶谷にハメられたの」
朱代は必死に怒りを堪えつつ尋ねた。
「うん! 色んな意味でハメられちゃった」
笑えない冗談を言ってまた引きつった爆笑を繰り返す浪子が哀れでならない。
「でもねお義姉さん、あたし自分が分かんない。騙されてデタラメな契約結ばされて、その場でいきなり撮影されて……それなのに気が変になるくらい感じちゃって、ノリノリでエッチしちゃって。その後で記事用とかいって変なインタビューされたんだけど、あたし自分からペラペラ恥ずかしいこと言いまくったんだよ。夫の安西がフェラチオ大好きだから、洗ってない包茎チンポ舐めるの慣れてるしむしろ好きだとか、AVデビューしたからには世界中の色んなチンポ味わい尽くしたいですとか……状況的には言わされてるのに、あたしからどんどん喋りまくって。ほんとのあたしがよく分かんなくなっちゃった」
自虐的に語る浪子の瞳は、笑い泣きというより恍惚に近い妖しさを帯びた。
「どうしよう……あたし、お義姉さんがこっち側に来るのが楽しみでたまんないの。お義姉さんもわたしと同じように……ううん、もしかするとあたしよりももっと、この変な快感にどハマりしちゃうんじゃないかって気がして」
浪子は三杯目を飲み干した。
いかに呑んべえの浪子でも、ハイペースすぎる。
グラリと揺れて、ソファにもたれかかる浪子の前から酒を片付けると、浪子はドアを開け柴田を呼んだ。
安西のもとから追放されたという浪子は、ここに身を寄せるつもりなのだろう。
部屋はいくらでも空いていた。
「浪子ちゃんを寝かせてあげて」
「はい……部屋は、姐さんの隣でよろしいでしょうか」
「そうね。荷物もあそこにまとめて運ぶといいわ」
浪子をお姫様抱きした柴田が出ていくと、朱代は崩れるように座り込み、グラスに酒をおかわりした。
浪子の話を聞きながら、女の部分がしっとり濡れてきてしまったのを、認めたくなかった。