責任-2
そして自分の夫の事をどう感じているのかが視聴者達の大きな関心であった。奈々もそれは理解している。他のアナウンサーに紛れさせ、通り過ぎる事は出来ない問題だ。国民の関心を一身に集める奈々は、いよいよ夫の事について口を開く。
「皆さまもうご存知の通り、今回売春行為を行った藤井直人は私の夫であります。私がこのプライム・ゼロでどれだけ女性の立場、権利、不当な扱いにメスを入れ、少しでも向上させようと命をかけて頑張って来た姿を見ていたはずです。しかしそんな私の全てを否定するようなこの今回の事件、私は悲しくなりました。大きなショックを受けております。」
詰まりそうな声を必死で振り絞りながら話す奈々へ、同情する視聴者は多かった。しかしそれでは済まない。どんな責任の取り方をするのかに注目が集まる。
「しかしながら、私は皆様に同情して欲しいと言う気持ちは全くありません。これまで私が…、プライム・ゼロが全力で取り組んできた、特に女性に対するハラスメント問題、夫がその許されざる加害者側の人間であったなど、世間の方から見れば私は笑い者でしかありません。今、寂しさや悲しさよりも、恥を感じております。偉そうな事を言って来たが、夫が売春??マヌケだな…、私にそう言った言葉を投げたい視聴者の方はいっぱいいるはずです。その通りです。私はマヌケな女です。自分の夫の本性に気付かずに夫婦となり一緒に暮らしていたマヌケな女です。そんなご意見は甘んじてお受け致します。本当に申し訳ございませんでした。」
また深々と頭を下げ謝罪する奈々。記者会見であれば他局もこの様子を生中継するところだが、あくまで放送の中の謝罪だ。生中継はできない。モニターで確認しながら、同時刻に韓国で行われているいる分首相の、この事件に対して不快感を大いに現した記者会見の様子を流していた。韓国の分首相は激しい怒りを表していた。もともと反日政策で首相の立場を守って来た分首相にとっては、反日を煽る事で落ち込んだ支持率を上げる絶好の機会でもあったのかも知れない。一気に捲し立てていた。
「くそッ!愚かな真似をしてくれやがって…!」
首相らしからぬ汚い言葉で本音を口にしたのは日本の多部首相であった。もう少しで基盤が緩み弱体化していた分政権から主導権を奪えそうであったこのタイミングでの最悪な事態に頭を抱えて机をドンッと叩くのであった。