剣だこ〜試合〜-1
そんなこんなで私は選手に選ばれることができた。
予期せぬ事態に私は高鳴った。
明日は試合。
今夜は興奮して寝れるはずがない。
試合で鮮やかに一本決めている自分を想像してみた。
知らぬ間に私は眠りについていて、いつも以上に早く目が醒めた。
身仕度をして竹刀を担いで家を出る。
朝の空気が凛とした冷風が心地よく、空を見上げた。朝の総合体育館は静寂に包まれていた。
開会式が始まり、他校の選手にどうしても目が行ってしまう。
誰もかれも私なんかより強そうに見える。
精悍な敵対者に私は萎縮しそうになったので、頬をパンパンと二度たたいて気合いを入れ直した。
10:25。私の試合は4試合めだった。
いよいよその時が来た。
面をきつく締め直して正方形にラインで仕切られたBコートへ向かう。
床の冷たさがより一層感じられ心地よかった。
鼓動が高まる。
狭くなった視界に相手が映った。
静寂。
歓声も止んだ。
張り詰めた空気、自分、汗。
周りに誰もいないような感覚。
四角いコートの中は相手と私だけ。
頭がジューっと音をたてているかのように熱をもつ。
礼をして中央へ。
練習時に感じた体の重さはなかった。
竹刀を合わせ、号令がかかる。
ォウアァァ−!!
強い気迫とともに相手が迫ってきた。
負けずに応える。
相手は前後に小刻みに揺れながらリズムを取っている。
視線は右手へ。
私は練習してきた小手面を狙う。
今思えば私の視線は相手の右手に釘づけだったのだろう。
力強く踏み込む。
勢いよく放った私の剣先はスラリとかわされて、
がら空きになった面に
一本。
きれいに決められてしまった。
一瞬だった。
刹那で決まる攻防。
初めてもらった脳天への一撃は意外にも軽やかすぎた。
実感がない一撃。
あと一本とられてしまったら……
焦る。
焦りは隙をつくる。
動け動け動け。
念仏のように呟きながら
仕切り直して試合再開。
自分から切り出しても二の舞になってしまう。
相手の出方を待ってみた。
臆病な戦法だった。
テンポよく相手の剣先が私の小手を狙う。
的確に鋭く。
竹刀で払い除けて何とか難を逃れたが、
次の瞬間
弾かれた剣先が軌道修正しながら面を狙う。
私は後ろに跳んだものの時遅れて
脳天に打撃を感じ軽快音が鳴った。
二本負け。
蹲踞をしてコートから出る。
負けた実感もなく、戻っていく中悔しさは不思議と感じなかった。
悔しさより興奮が私の上位に来ていた。
落ち着いて正座して面紐を外す。
熱い外気に汗が発散するようだ。
水道へ。