[指輪に願いを]-6
「う…ッ…ひうッ!あ…愛人に…ッ…んぐッ…愛人になります…ッ」
妊娠するまで監禁レイプされ続けるより、自宅へ戻る事を許される愛人の方がマシ……ただそれだけの理由で優乃は愛人を選んだ……まだ誰とも経験していない肛門での性行為を、いや、しようとも思っていなかった変態遊戯が直ぐ未来にある……恐ろしい隣人の笑顔が眼前に迫ると、優乃はその顔を直視出来ずに怯えきった顔を背けた……。
『ヒヒヒ!そうか、俺の愛人になってくれるのかあ……じゃあもう『奥さん』なんて呼ばないからねぇ?』
「ッ……!!??」
芦澤は首輪から手枷を外してやった。
まだ両手首が繋がれたままとはいえ、首輪から外された腕は自由に伸ばせるようになった。
完全なる拘束が僅かだが解かれた優乃は我が手と芦澤を交互に見て、このまま足の拘束も弱められるのかと固唾を飲んだ。
(………!!!)
優乃の視界にキラリと光る輝きがあった……それは左手の薬指に光る指輪の輝きだった……ギュッと拳を握り、額に当てて祈る……あの日、二人の永遠の愛を誓ったこの指輪なら、きっと恭介の元までこの凶兆を届けてくれる……一刻の猶予もない危機的状況を、恭介に知らせてくれる……。
(ダンナ様ッッッ!)
今ならば神を信じる。
荒唐無稽だと思っていたテレパシーの存在を信じる。
なんの落ち度もない自分の人生が、こんな隣家のオヤジ如きに破滅させられる理不尽など、あってはならない……。
「……何をッ!?やめてッ!い…やあッ!」
芦澤は四つん這いの姿勢になって優乃に覆い被さり、しかし、これ以上の密着を阻止しようと伸ばされた両手にされるがままに押し退けられている。
(は、離れてッ!あたしにくっつかないでぇッッ!)
軽々と眼前の異常者を押し退けられている。
この指輪が持つ神秘的な力が、優乃の貞操を守る為に秘めたる真価を発揮してくれている。
このまま恭介が帰ってくるまで持ち堪えられたら……その《奇跡》にすら縋りたくて懸命な優乃に、この異常者は余裕たっぷりに笑ってみせた。
『さっき「愛人にしてください」って〈お願い〉してきたじゃないか。だったらそっちから腕を廻して抱きついたらどうだ?あの台詞が《嘘》じゃないならなぁ……もしも嘘だったら…?』
「ッ……!!!!」
腕の拘束を弱めたのは《操り人形》にする為だった……そして力任せに密着しようとしていなかったのも、いま気付かされた……芦澤という男の底意地の悪さに改めて戦慄した優乃は、抵抗を止めざるを得なくなって異常者の顔の接近を許すしかなくなった……馬鹿にしたように弾む吐息が鼻に掛かり、欲情を剥き出しにした瞳が窮地に立たされた幼妻の泣き顔を舐めるように眺める……。
『さあ、俺の首に腕を廻して愛人契約の証のキスをしてみなさい……ヒヒッ…優乃、キスしていいんだよぉ〜?』
「ッッッ!!!」
鼓膜から続々と伝わってくる〈情報〉に、優乃の全身は悪寒に震えた。
まるで優乃の方から愛人契約を願い出たかのような物言いもさることながら、それを聞いてやらんでもない≠ニの上から目線で対応しようという心底が明け透けにされていたからだ。
そして挙げ句の果てには呼び捨てである。
優乃は自分の名前すら汚された気持ちになり、思わず芦澤を見遣ってしまったが、その小さな反発すら異常者の熱視線の前には虚しく潰えた。
『……この嘘つきマンコが』
凄味を利かせた侮辱発言に、優乃は芦澤の怒りを感じて怯んだ……伸ばしたくない腕を伸ばし、掛けたくない芦澤の首に手首を掛け、そして近づけたくない顔に自分の顔を近づける……ギュッと閉じられた瞳からはボロボロと涙が溢れ、への字に捻じ曲がった唇はワナワナと震えている……。