牛丼-2
「ちょっとぉ! お父ちゃん、ウチにケンカ売ってるのぉ!?」
風呂から帰ってきた花梨は、いきなりお冠。
「な、なに怒ってんの?」
まったく意味がわからず、こっちは狼狽えっぱなし。
「ウチがいるのに、お弁当買ってくることないでしょう」
口を尖らせてすごい剣幕。
どうやら、食いもんのことで怒っているらしい。
「いや、お前、吉野家の牛丼好きだよね?」
さっきの風呂上がりに、ついでに買ってきた。
「たしかに好きだけどさ、今ウチらが入ってきたお風呂だって大人680円に、子供340円もするんだよ。お風呂だけで千円以上も使ってるんだよ。これ以上無駄遣いなんてできないでしょ!」
はい…。
「ウチがいるんだから、ご飯くらい作るって前も言ったじゃん!」
俺のトラックには、小型冷蔵庫に簡易炊飯器、それに車載用ポットまで積んでいる。
もちろんガスコンロもあるから、食材さえあれば、一通りの調理はできる。
WiFiにテレビまであるんだぜ。
ほとんどの長距離トラックが積んでるであろう標準装備。
積んでないのは、鍋くらいなもん。
男の料理は、昔からフライパンと決まっている。
「そんな怒るなよぉ。次からは気をつけるからさぁ」
毎晩裸にして虐めてるはずなんだけど、なぜかこいつには頭が上がらない。
「無駄遣いすると、もうエッチさせてあげないからね」とか、ブツブツ言いながら、しっかりと牛丼を食い始めた。
無駄遣いとエッチがリンクする、お前の頭がよくわからん。
でも、花梨が隣りにいると、何を食っても旨いから不思議だ。