終電-2
右の男が手にしているのはローターという器具だ。漫画か何かで見たことがある。趣味で他にも複数持ち合わせているが、手早く女をイカせるにはこれが一番だ、と講釈を垂れている。既にこの電車で何人かヤっているらしい。およそ自慰とは無縁で潔癖そうな女たちを。
話のさなか、性器に冷たい異物感。入る、と知覚する間もなくローターが押し込まれた。流れるような手の動き。馴れている。
手にしているリモコンのつまみが回され、ブブブブという低い音と共に自分の中が振動しだした。同時に、左の男が後ろから腕を回し、両の乳首を指先で弾く。
――――ングゥ!
反射的に顔が上がり、声にならない声が出る。それに続く妙に小刻みな動きに、ア、アファ、グゥ、と漏れるのを止められない。全身の力がへなへなと抜けていく。
「せっかくなんで、動画良いっすか」
若い男がスマホを向ける。当然抗議する余裕はなく。少しでも刺激から逃れようと腰を動かすと、ローターの角度が変わり、より強い刺激が全身を走る。
ンーウー!!
「ローター気に入った?もしかしていつも使ってる?」
と正面の男。乳首と膣内だけ、感覚が取り残されているようだ。強制される刺激に、確実に感度が上がり、血液が集まる。
「顔真っ赤っすね。あんなに睨んでたのに」
「涙目になって可愛いね、おねえさん」
言われてうつむくと、正面の男のにやけ顔。
「おねえさん。あと五分で終点だけど。それまでイカなかったら解放してあげる。もしイッたら便所で乱交ね」
(あと、ご、ふん……?)
刺激に占領される頭に、ぼんやりと、希望。その間も快感の蓄積は続く。
「こんだけ真面目そうな女、さすがに電車の中でイカないだろ」
「イッたら痴女確定」
「見せてくださいよ、大人の女のプライドってやつ」
若い男は鼻息荒くスマホを向け、自らの股間をズボンの上から撫でている。
(イかない、ぜったい、イかない……)
厶グ、フグ、フグ、
フガ、アグ、ウグ、
(もう、すこし、あと、すこし……)
ムン、ンフ、
ンンンン、ムウウウ、
(だめだめだめだめだめ)
フグゥ、ウグゥ、
(やだやだくるくるああああああ)
…………………………
…………………………
フムゥンッ!!!!!
全てが決壊した。
顎が上がり、背中が仰け反る。腰が浮き、溜まっていた快感が頭から足の先まで駆け巡る。
アフッ、アフッ、ンフッ、ヒフッ……息をしてもしても苦しい。口の中に湿ったネクタイが張り付く。天井、吊り革、男の顔と笑い声。全て混ざった景色。アグッ、ハヒッ、アヒッ、アフッ、と精一杯呼吸する。……ヒー、フヒー、フヒー……ヒー……。わずかに意識を取り戻しかけたとき、次の波。
フウウウン!!
2度目の痴態。
「うぇーい!」
歓声があがる。同時に乳首の刺激から解放された。
「言ったろ、女はみんな淫乱だって!」
「乱交決定ー」
「もしかしてヤリたかった?」
男達は達成感にひたり、好き勝手に盛り上がっている。が、ローターの振動は止まっていない。お願い、止めて、と訴えるもヘゲ、フゲ、としか音にならない。
盛り上がりが落ち着こうとする頃、勝手に、自動的に、惨めに、三回目の絶頂。
アウウウーー!!
ギャハハハハ、と一同爆笑。
「どうしたおねえさん」
「待ちきれないってさ」
「ほら、もう着くから」
電車が止まると、秘部の振動はそのままに、両脇を抱えて立たされる。よろよろと、導かれるままに歩く。口、胸、下半身が自らの体液でベタベタになっていた。着席時の、清潔感を意識した服装は玩弄の痕に変わり、生物的弱者を象徴するように生乳と秘部を晒している。
「書類と、スマホと、さ・い・ふ……」
正面にいた男が私のバッグを漁っているようだ。
「誰から挿れるんすか?俺にください、脱童貞っすから!」
無邪気にはしゃぐ若者。
最後の望みの駅に、人影はなかった。そこからは記憶がない。気付いたときには、いつ掃除されたかも知れない男子便所の床。きつい刺激臭は自身か便器か。ボロボロの布切れと化した服に、体液と痣だらけの体、潰れたバッグ。それに記念写真、とでも言いたげな大量の画像のサムネイルが表示されたスマホを持って、少し離れた一人暮らしのアパートに向かう。体をすくめ、人との遭遇に怯えながら。