ハニートラップ-1
プライム・ゼロは他の番組に比べて、セクハラ、パワハラなどのハラスメントのニュースを多く取り上げ、それが視聴者の共感を得た。特に女性への様々なハラスメントには力を入れた番組構成だ。男社会のなかでもがき苦しむ女性から絶大な支持を受け、今やジャパンTVの看板番組へと成長している。
「次のニュースは、昨日民事党の安田官房長官が得だねを餌に番記者である女性を食事に誘い、ネタを提供する代りに無理矢理酒を飲ませて泥酔した女性をホテルへ連れ込み性的暴行を加えた疑いが持たれています。」
奈々が怒りを露わにした表情でニュースを読み上げ終わると映像に切り替わる。
「調べによりますと安田官房長官は酔ってフラフラな状態の番記者、上田紗子さんを抱き抱えるように部屋へ連れ込みいきなり服を脱がせて暴行に至ったとの事です。上田紗子さんのインタビューをどうぞ。」
上田紗子は27歳でキリッとしたモデルのような美人であった。きっと彼女はしばらく笑顔を見せていないのだろうなと思わせるような表情でインタビューに答えた。
「私は同意なんてした覚えはありません。最後まで抵抗しました。いきなり着衣を剥がれ全裸にされ、酔って体が思うように動かないながらも必死に抵抗しました。でも手を縛られていつまでも騒ぐなと頬を平手打ちされました。グッタリした私を見ながらニヤニヤして服を脱ぎ全裸になった彼は私の首元に馬乗りになり、俺に逆らったらもう仕事はないぞ？と言って…、その…あの…男性器で私の顔を何度も打ちました。恥ずかしい写真を何枚も撮られ、愛人になるよう迫られました。でも拒絶すると怒り狂った彼は無理矢理私の中に…。あれは完全にレイプです。私は彼にレイプされたんです。同意なら…あの…濡れるから膣に傷はつかないはずです。彼は濡れてない私に無理矢理入れて、そしてそのまま中に出しました。それは病院で検査を受けたので検査結果が出れば明らかになるはずです。同意なんかじゃない…決して同意なんかじゃ…」
そう言って泣き崩れる姿が放送された。
「一方、安田官房長官は、あくまで同意の上での行為であったとのコメントを貫いております。」
そこで映像が終わりスタジオにカメラが戻る。
「レイプされたと認めるのは並大抵の勇気だけでは出来ない事です。私は彼女が決死の覚悟で訴えた勇気に尊敬の念を抱きます。酔って正常な判断が出来ない女性を部屋に連れ込む事が果たして同意と呼べるのでしょうか。それに仕事を与えるから体を自由にさせろ、写真を撮って愛人になれ…、この証言が事実なら同じ女性として到底許す訳には行きません。知らぬ存ぜぬ記憶にない…、そんな言い訳が通用する時代ではありません。今後の捜査で悪事が暴かれ証明される事を願うばかりです。」
奈々がコメントを終えると、里美がまるで一視聴者がテレビの前で言うような口調で呟く。
「絶対に許せない…」
と。
この呟くような里美の言葉が多くの視聴者の共感を得ている。そして良く殺人事件を伝えた次のニュースへの移行の時、すぐに切り替えて新しいニュースを伝えるキャスターが多い中、その憤りを押し殺すかのように5秒ほどの沈黙を見せる奈々の間合いは絶妙であるのだ。それが一つ一つの事件に本気で取り組んでいる姿勢だと評価されている。
この日も視聴者から大きな評価を得たプライム・ゼロ。奈々と里美の評価は日を追うごとに大きくなって行く。