明かされた街の秘密-6
オレはずっと思っていたことをついに思い切って口にした。
「先生。その言葉は禁句です。
いえ、禁句と言うよりも、
その言葉の持つイメージが犯罪や非道徳的なものといったものを想像させます。
あくまでも心からのおもてなし。
お客様がお選びになったプランに合わせてのサービス行為です。
決して、おっしゃるような【スプリングセール】ではないのです。
これはいわば、この街の文化であり歴史そのものなのです。」
「しかし、法律的には………。」
「はい。確かに日本の法律に照らして考えれば法律違反ということになるでしょう。
しかし、この街では街が認めている。この街の産業として街が認めているのです。
つまりもしも法律を犯しているものがいるとすれば、
それは我々個人ではなく、街という存在なのです。
もっとも、わたしたちにとってこの街は自分たちそのものでもある。
もしも街が罰せられることになったなら、
当然わたしたちも罰を受けることになるのでしょうが………。
まあ、それはないでしょう。
罰する人間が自分の首を絞めることになりますからね。
お客様の中にはいろいろな方がいらっしゃいますから。
言ってみれば、今この街は特別区と言いますか独立国と言いますか、
そんな存在なのです。
法律的にも道徳的にも倫理的にも。
この街の住人は誰一人問題視してはおりません。」
きっとオレの理解や常識を超えたところにこの街の常識や道徳はあるのだろう。
ここでアキラと議論を戦わせることになんの意味もない。
言ってみれば短期労働者のオレはこの街の短期居住者にしか過ぎないのだ。
郷に入れば郷に従うのがそれこそ常識というものだろう。
オレが一人納得していると、アキラがにこやかに笑いながらボトルを近づけた。
「先生。どうです?そろそろおもてなしさせていただきましょうか。」
「おもてなし、ですか。」
「ヒカルのおもてなしの様子をご覧になって、何とも思われませんでしたか?」
「いや、わたしが口をはさむようなことではないかと………。」
「あ、これは失礼。わたしとしたことが聞き方が悪かったですね。
さっきのうちのやつの様子を見て、興奮されませんでしたか?」
「興奮…って……。あ、いや、その………。」
オレは正直答えに窮した。
あれだけのシーンを見せつけられて興奮しないわけはなかった。
しかし麗子の気持ちを考えると複雑な思いもした。
それに何よりもオレの隣には麗子が座っているのだ。
教え子を前に言えないこともある。
それを察してかアキラが麗子に声をかけた。
「麗子。お前はそろそろ寝る時間だ。先生にご挨拶して部屋へ行きなさい。」
「だって、明日は休みだし、せっかくだからもう少しセンセと話してたいもん。」
「先生もお前がいるとなかなか本音が言えないだろ。さっきからお困りだぞ。」
「えっ?そうなの?わたしがいると、センセ、本音が言えないの?」
「あ、いや、そんな、」
「でもセンセ、いっつも本音で勝負しろって授業中によく言ってるじゃない。
上っ面の言葉じゃなく自分の気持ちに正直になれって。
あれって嘘?」
「ほら、すぐにお前はそういう風に大人を困らせる。
お前の目の前で《興奮しました。ぼくもしたいです。》なんて言えるはずないだろ。」
「えっ?そうなの?センセ。
うちのお母さんのセックス見てて、興奮したの?」
「あ、い、や、その………。」
「ね?スタイル、良かったでしょ?そっか、センセも興奮したんだ。」
「麗子。そのくらいにしておきなさい。もう大人の時間だ。
そろそろ自分の部屋へ行くこと。
お父さんはまだ先生とお話がある。」
「は〜い。わかりました〜。でも、母、戻るにはまだ時間があるよ。」
「大丈夫。あらかじめ連絡を入れておいた。」
「あ、来てくれるの?ユリカおばちゃん。」
「ああ、あちらは今夜はいないそうだ。」
「じゃあ、信一おじちゃんは?」
「もちろん一緒だ。」
「ということは幾夜ちゃんも琢磨兄ちゃんも華恋ちゃんも一緒?」
「ああ。もうそろそろ来るだろうから。そしたら5人で風呂でも入って。」
「やった〜。じゃあ、今夜は5人で一緒に寝れるんだ。やった〜。」
「ほら、じゃあ、部屋でお風呂の用意でもしていなさい。
来たら呼んであげるから。」
「は〜い。じゃ、センセ、おやすみなさい。ごゆっくりね。」
麗子は意味ありげな顔でおやすみを言うと、
父親の目の前でありながらオレに抱きつき、キスをしてリビングを出て行った。
「・・・」
あっけにとられているオレをみて、アキラが言った。
「まったく。申し訳ありません。先生のことが好きでたまらないんでしょう。」
「は、はあ。あの〜。どなたかいらっしゃるんですか?
でしたらわたしはそろそろ…。」
「何をおっしゃいますか。
本来ならうちのやつがおもてなしをしなければならないところなのに、
あいにく予定が入っていて…。
ですから急遽、あいつの妹を呼んであるのです。」
「奥様の妹さん、ですか?」
「はい。うちのやつは双子姉妹でして。
まあ、顔も体も性格も、夫のわたしでも見分けがつかないくらいで。
何度かどちらかわからずに抱いてしまったこともあるくらいです。」
「抱いてしまった?」
「いや、どうせ4人で寝てた時ですから。
間違えたというよりも、今、どっちとしているのかわからなくなった状態のまま、
抱いていたと言った方がいいかもしれません。」
「はあ………。」
なんだかんだ言いながらも、
娘が聞いている場面ではアキラも話しにくかったのだろうか、
麗子が部屋に行ってしまったとたんに、
アキラの話っぷりが変わったようにオレには思えた。