1:1:1〜佐々成将〜-3
「成ってさ…」
佐和の言葉に俺のゆるんだ顔は、ぴくんと動く。
「優しいよね」
その言葉に深い意味はあるのか…
「…お茶に誘ってくれたのだってあたしのためでしょ?」
佐和が足元を見たので、俺も視線を落とした。
珍しく履いているスカート、そこから見える綺麗な細い足。その先には真新しいミュールと赤くなってる爪先。
「苦手なんだよね、ヒール高い靴」
俺は何も言えなかった。
近寄ってきた佐和が、立ってるのも辛そうに見えたから…。
純粋に、ただそれだけの理由。
「早将ってさ、めっちゃおもしろいよねぇ〜」
押し黙ってしまった俺に気付いたのか、佐和は話題を早将に変えた。
「こないださ、いきなり朝電話してきてさ『映画いくぞー』って…超計画性無いんだから」
佐和の笑顔と初めて聞く話に俺の目が泳いだ。
二人で…遊んだことがあるのか…
なんだかひどくがっかりして、胸の一部にぽっかり穴が開いたような気分になった。同時にすっきりしない気持ちにかられる。
佐和は何か言いたげに俺を見たが、一瞬視線を落とした。
俺が頭にハテナを浮かべていると、またすぐに顔を上げた。
「早と成って正反対っぽいけど、昔から仲いいんだよね?親友ってやつ?羨まし〜。あたし小さい頃から転校ばっかしてたから…」
佐和はちょっと悲しげな様子でコーヒーをまた飲んだ。
「…佐和も親友やん」
やっとこさ一言話して、俺もコーヒーを口へ運ぶ。
「…うちら、仲良し3人組って呼ばれてるらしいね。なんかズッコケ3人組みたいで笑える」
佐和の笑みが、俺の胸に開いた穴をふさぐ。
ほっと胸を撫で下ろしていたとき、佐和がコーヒーの香り越しに俺を見つめてきた。
キレイで吸い込まれそうで…一瞬無意識の内に、その目に見入ってしまう。
ずっと見ていると心のなか全て見透かされそうで、ハッとして、俺は目を逸らした。
しばらくの沈黙のあと、佐和がまた普通に話をはじめた。
今のは一体なんだったんだ?
もしかして…?
変な気持ちが思い浮かび、俺はまさかな…と心の中で自分を笑った。
俺は咳払いするふりをして、高鳴る胸のドキドキを隠した。
沈黙を破ったのは誰か
学祭が迫ってきた。
一日目が文化祭、二日目が体育祭の忙しい学祭を一週間後に控えたある日、早将に呼ばれた。
「俺さ、佐和に告ろうと思うんだわ」
看板作りをしていた早将は、ほっぺに赤いペンキを付けた顔で真剣に話した。
「後夜祭ん時、呼び出してくれん?」
その口から放たれる一言一言に絶句している俺を見ながら、早将は続けた。
「告らずにさ、このまま三人で楽しく…ってのもありかと思ったけど、無理やった。佐和と他の男が話してんの見ると不安でたまらんくて…まぁ成は別だけど。今の関係もいいけど、もらえるなら…『親友』じゃなくて『彼氏』の肩書きが欲しい」
早将の目は真っすぐで、下ばっか向いてる俺とは違った。
あぁこの目…この間の佐和とそっくりだ。