１：１：１〜佐々成将〜-2
「佐和は？短大とか？」
俺の前の席に座っていた早将は、紙パックのジュースをズーズー吸いながら振り返った。
「あたし？あたしはぁ…働くかな？特になりたいものもないし」
「何なら俺のお嫁さんにしてやるぞ？」
早将がそう言って笑う。
弁当をつついていた俺は無意識に箸を止め、視線をあげる。
「え〜？…じゃあ、早将が警察官になったら考えようかなぁ？」
佐和は警察官や消防士を世界中で最もかっこいい職業だと思っている。
(根拠は特に無いらしいけど…)
俺は話を聞きながらゆっくり箸を動かし始める。
「上等!!んじゃ佐和は肉じゃが作れるようになって？俺甘めの肉じゃが大ちゅきやから☆それがお嫁さんの条件なりっ」
「あ〜残念。あたし薄味のが好み〜。成は？」
俺の机に肘をついて、佐和はその大きな瞳で俺を覗き込む。
「薄味…そんでじゃが芋はでかすぎずコロコロしてんの」
「お!!成と好みおんなし!!こりゃ早と離婚して成んトコ行かなきゃだねぇ〜」
「そんにゃあ…」
オーバーリアクションでふざけながらも本気で肩を落とす早将。
それをみて悪戯っぽく笑う佐和。
甘めが好きって言えば良かった…そんな後悔が残った。
この手の話は苦手だ。
なるべく俺は避けてきた。
でも三人の時はたまにこういう話題になった。(まぁ早将がアピールしてるから仕方ないけど…。)
早将の気持ちは態度を見れば誰でもわかる。佐和も気付かないほど鈍感じゃない。
佐和の気持ちは誰にもわからない。
俺の気持ちは
誰も知らない。
「成ぃ〜」
ある日曜。
街でばったり佐和と会った。佐和は駆け足で俺に近づいてくる。
「ひとり？」
いつもならラフな格好が多いのだが、今日の佐和は軽くおめかしをしていた。
「…どしたんすか？その格好」
「あぁ…今度お姉ちゃんが結婚するから、その家族とうちの家族で食事したの、その帰りだから…。可愛いでしょ？」
一瞬言葉につまる。
クルリと回ってみせた佐和が、普段とは全然違ったから。
俺が適当に返事をすると、佐和はブーたれていた。
「コーヒーでも飲む？奢るし」
俺の提案に、佐和は手を上げて賛成した。
すぐ近くのカフェに入って、しばらく普通に会話してすごした。
早将が見たら羨ましがるだろうな…と、早将のブーブー言う顔を想像して俺は小さく笑った。
「何？あたしなんかおかしい!?」
「いや…佐和じゃなくて、早将。はばにされてるの知ったら、あいつ悔しがるだろうなぁと思って」
佐和は俺の話に笑みを浮かべながら、コーヒーを一口飲んだ。