切ない幸せ-1
どうやら幸代と一夜を共にする事になりそうだ、そう思った瞬間、海斗はどうしても緊張してしまう。本当にいいのかと聞くのも失礼だし傷つけてしまうかも知れない。だが本当に抱いていいのかどうか戸惑ってしまう。少し変な空気が流れた。
そんな空気を変えるかのように幸代は言った。
「シャワー、借りてもいいですか?今日、いっぱい汗かいたから…」
「あ、ああ…いいよ…?た、タオル用意するから…」
「ありがとうございます。」
海斗はスッと立ち上がり、そそくさとタオルを取りに行った。
「これ、バスタオルな?あとタオル。」
幸代に手渡す。
「ありがとうございます。」
幸代は少し恥ずかしそうにタオルを受け取りバスルームへと向かって行った。
(ヤッベ…マジ緊張して来た…。今からマジで幸代とヤルのか…?)
今まで考えた事もなかった。しかし女として見た時にはやはりいい女ではある。顔も美人、身長もスラッとしていて胸もなかなか大きい。むしろ幸代みたいな美人とヤレるのは男として嬉しい事だ。しかし明日も会社で顔を合わせる。明後日も、その先もずっとだ。これから幸代と今まで通りに仕事のパートナーとして接していけるかどうかが不安であった。
緊張しているのは幸代も同じであった。ここ数年、彼氏はいなかったし恋愛経験が豊富な訳ではない。豊富と言うよりむしろまだ1人としか付き合った事がない。自ら望んだ事とは言え体が震えてしまうぐらい緊張していた。
(大丈夫かな、私…。)
不安を抱えたまま、どうしようか迷ったが海風に吹かれた髪を洗った。バスルームには女物のシャンプーとコンディショナーが置いてあった。誰の為のものであったか当然分かる。幸代は嫉妬と言うよりも瀬奈への罪悪感を強く感じてしまう。
髪を洗った後、メイクも落とした。スッピンを見られるのは恥ずかしいが、もともとメイクは軽めで、メイクのオンオフに大した差はないと自分では思っている。海斗に素顔を見て貰おうと思った。それからボディソープを泡立て腕、胸、腰と下に向かって洗って行く。性器は念入りに洗った。最後に脚を洗いシャワーで泡を流しバスルームを出た。裸にタオルを巻いて出て行くのは少し調子に乗りすぎかなと思い、下着をつけシャツとジーンズを履いて部屋へ戻る。
「ありがとうございました。」
ソファの上で固まっていた海斗に言った。幸代に振り向いた海斗はスッピンの顔を見る。
「あ、化粧してもしなくてもあんま変わらないのな!」
そう言われて嬉しかったし安心したが、やはりスッピンを見られるのは恥ずかしかった。
「顔が変わり過ぎてたらどうしようと思ったよ!」
悪戯っぽい表情で言った海斗。
「あー!酷くないですかー??」
頬を膨らませて微笑する幸代。取り敢えずがっかりさせずに済んだようで安心する。
「ドライヤー貸して下さい。」
「ああ。洗面台の引き出しに入ってるよ。」
「わかりました。お借りします。」
幸代は洗面台に行き髪を乾かし始めた。海斗はその間、再びソファで固まっていた。
やがて髪を乾かし終えた幸代が戻って来た。仕事の時とは違うオフ感漂う幸代の雰囲気にドキドキしてしまう。
「お、俺もシャワー浴びてくるわ…。」
「ハイ…。」
海斗は足早にバスルームへと向かって行った。