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THE 変人
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普通の生活-9

そして幸代はごく自然な流れで瀬奈の名前を口にした。
「瀬奈さんの事、忘れられないですよね。」
海斗は幸代も瀬奈の話題を口にしないよう気を使っていたであろうから、いきなり瀬奈の名前を口にした事に驚いた。
「えっ…?」
見るからに動揺する海斗に幸代は微笑さえ浮かべながら言った。
「忘れる必要、ないんじゃないですかね?」
「え…?」
忘れようとしている海斗とは真逆の考えに戸惑いを隠せない海斗。何て答えていいのか分からなかった。
「どうして瀬奈さんへの心配を口に出さないんですか?心配することがそんなにいけない事ですか?」
「いけない事じゃないけど…、でも…」
「私は心配ですよ?また何かの拍子で病気が発症していないか…、そのせいでみんなから変な目で見られてないか…、理解してくれる人が誰もいなくて寂しい思いしてないか…、物凄く心配です。瀬奈さんは普通の人なのに、それを分かってあげる人間が周りにいてくれればいいなとか。また買い物行きたいなとか。」
「う、うん。そうだな…。」
「そう思ってるなら、私にはそう言う話、してもいいんじゃないですか?私は海斗さんと一緒に瀬奈さんに真剣に接した人間として物凄く心配です。忘れようとしてるなら絶対におかしいです。誰にも言えず、忘れようとしても忘れられず、自分の中だけで心配してたら海斗さんが病んじゃいます。どんな事でも口にすれば気持ちは楽になるじゃないですか。」
「そ、そうかも…な。」
煮え切らない海斗に向かって言い放つ幸代。
「だいたい思った事をすぐ口にしてきたから葛城海斗がある訳で、そうじゃない葛城海斗なんて葛城海斗じゃないんじゃないんですか?このままだと葛城海斗が葛城海斗じゃなくなっちゃう。いつか瀬奈さんが戻って来た時、変人じゃない葛城海斗がいたらがっかりしますよ?だからその日の為にも葛城海斗は葛城海斗、変人でいるべきなんです。違いますか??」
海斗は幸代のその言葉に、自分の心の中にあったモヤモヤが全て消え去ったかのような清々しい気分になった。そう言われて思い返せば、瀬奈がいなくなってからの自分の姿が恥ずかしく感じる。冗談も言わず模範的な社員として黙々と仕事をこなしていた自分、悩みや苦しみを誰にも言えず一人で抱え込んでいた自分が、あまりにも葛城海斗らしくなくて恥ずかしくて仕方がなく思った。海斗は幸代の言葉にふっ切れた。

「フフフ、幸代〜、俺に能書き垂れるようななったとか、出世したもんだなぁ??」
そう言って、いかにも意地悪く色々責め立ててやるぞ的な表情を見た瞬間、幸代は物凄く嬉しく感じた。海斗が帰って来た、そう確信した。
「お帰りなさい、変人さん♪」
海斗は親指を立ててニヤリと笑う。
「アイル ビー バック!」
ターミネーター風にそう言った。
(使い方間違ってるけどね!)
しかし幸代は海斗らしくていいなと思った。


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