普通の生活-8
夕食の準備を手伝うと言った幸代に海斗はゆっくりしてろとソファに座らせ自ら今日釣った魚で料理を作り、一緒に食べた。料理の腕は確かな海斗。幸代に舌鼓を打たせ満足げに笑った。食事のお礼にと後片付けは幸代がした。後片付けをしてもらい、自分はソファに座り寛ぐ感覚がもはや懐かしい。食器を洗う幸代の背中を見ながら瀬奈を思い出す。
(クソ、やっぱり忘れらんねーな。)
どうしても思い出してしまう。時間が経てば徐々に忘れて行くだろうと思っていたが、そう簡単には忘れられそうもなかった。今見ているのは瀬奈ではなく幸代だ。幸代に瀬奈の姿を見てしまうのはやはり幸代に悪い、そう思い視線をテレビに向けた。
「終わりました♪」
食器を片付けた幸代が戻った来た。
「悪かったな。」
「いえいえ、ご馳走になったから後片付けぐらいしなきゃ。一応私、女なんで♪」
女なんで…、その一言が何故か印象的だった。会社の後輩と言う意識が強かった幸代だったが、女として意識した瞬間だったのかも知れない。女として意識した瞬間、一つ屋根の下に女と2人きりである今の状況に少しドキッとしてしまう。
今まで幸代とセックスする事は想像だにしたことがなかった。会社の後輩であり手を出す相手ではないからだ。妹のような存在、それが幸代であった。しかし女として意識した今、会社の後輩であろうがセックスをしてはいけない決まりはない。お互い独身だ。何の障害もない。それに幸代は正直言って美人でスタイルもいい。得意先からも人気がある。もし彼女になったなら間違いなく他人も羨む自慢の彼女になるだろう。だが幸代をそう意識するのが少し遅かった。瀬奈と出会う前であれば分からなかったが、瀬奈を忘れられないまま幸代に目を向ける事は絶対に出来なかった。海斗は今まで通り幸代を会社の後輩として接するのが一番だと思った。
しかし思った事は口にしなければ気持ち悪い海斗。幸代をいい女だと意識した素直な気持ちを口にしてしまう。
「しかしまぁ、お前も良く見りゃいい女だな!」
いさきりの言葉に動揺する幸代。
「ど、どうしたんですか、いきなり…。でも今頃気づいたんですか〜?♪」
「うん。」
「遅過ぎー!いつも近くにいて何を見てたんですかー?あー、分かった!私のオッパイばかり見てたんでしょー♪」
「ば、馬鹿か!?確かに意外とデケーなぁとは思ってたけど…」
幸代は腕で胸を隠し戯ける。
「やっぱ見てたんですねー!」
「そ、そんなオッパイばかりは見てねーし!」
ムキになって反論する海斗がおかしかった。幸代はふと穏やかな顔に戻して言った。
「でも一応女として見てくれてる部分もあるって事で安心しました♪」
「え?」
「いーえ、深い意味はありません♪」
フフッと笑った幸代を海斗は意味が分からなそうな表情を見せた。