普通の生活-7
道具から何まで釣りに関しては海斗が準備してくれた。殆どが釣りに関してはだが、面倒見のいい性格だとの評判だが、新人の頃から海斗と一緒に仕事をしている幸代にとっては何だかんだ言いながらもしっかりと面倒見のいい所を見せて貰っている。幸代だけは元々海斗は面倒見のいい人だと言う事は知っていた。
さて釣りは朝から食いが良く楽しいぐらいに良く釣れた。アジが釣れるとそれを餌にしてカンパチを釣る。
「何か可哀想だね。」
針をアジにかける様子を見て幸代はそう言った。
「食物連鎖だ、仕方ねー。」
納得出来るような出来ないような答えを言って海にアジを落とした海斗。狙い通りカンパチも調子良く釣れた。アジの引きとは違いカンパチの強烈な引きにキャーキャー騒ぐ幸代。海斗が手伝いながら何とか釣り上げると足震えさせながらも興奮した。
「スゴーい!ヤバい、釣り、面白い♪」
「だろ??」
初めて釣りをした人のその言葉を聞くのが物凄く嬉しい。そんな幸代を見て瀬奈と初めて釣りに来た時の事を思い出す。
(瀬奈も大興奮してたよな…。おっと、瀬奈の事を思い出すのは幸代に悪い。止めよう。)
せっかく自分を元気にさせようとしてくれている幸代に失礼だと思った海斗は瀬奈との思い出を頭から振り払い、興奮する幸代の笑顔だけを見つめた。
「カンパチと、ブリとかイナダとかの見分け方は、カンパチは上から見るとほら、八の字のラインがあるだろ?それがカンパチなんだ。」
「あ、ホントだ!へーっ!」
しゃがんでカンパチの八を見つめる幸代を見て可愛らしく思う。風に靡く髪を耳にかけた瞬間、海斗はドキッとした。今まで妹のように思ってきた幸代にオンナを感じた瞬間であった。思わず幸代の横顔を見つめてしまった海斗だが、幸代がフッと顔を向けてきて動揺してしまった。
「ん?どうかしました??」
「い、いや、何でもない…。さ、次!」
「よーし、また釣るわよ!」
可哀想だと言った言葉もどこへ行ったかの勢いで、幸代は自らアジに針をかけ海に落とした。
次に幸代が釣り上げたカンパチはこの日最大の大物であった。それを見た海斗は穏やかではなかった。
「な、なかなかデカイんじゃん…?お、俺はもっとデカイの釣った事あるけどね…」
見るからに悔しがっている。それから海斗は夢中になり幸代よりも大物を釣ろうと必死になったが、結局幸代のを抜けないまま釣りを終えた。
「私のが今日イチの大物でしたね♪フフッ♪」
「く、悔しくないぞ!?全然悔しくないぞ!?幸代が楽しい思いをしてくれれば、俺はいいんだよ。俺は…ハハハ…」
その様子が見ていて面白かった。
(やっぱりメンドクサイ人ね♪)
それでこそ海斗だ、そう思った幸代。それから車の中で海斗の負け惜しみを、軽くいなしながら聞いていた幸代。海斗の家に到着した時にはすっかり日も暮れていた。