普通の生活-6
「海斗さん、明日家に行ってもいいですか?」
同行している途中、幸代がそう言った。
「え?いやでも…」
これまでは瀬奈がいたから幸代が家に来る事にも抵抗はなかった。しかし今は瀬奈はいない。独身男性の家に独身女性が来る事に、海斗は遠慮してしまう。
「久しぶりにいーじゃないですか♪たまには魚料理食べさせて下さいよ♪」
努めて明るく言った。海斗は真顔で幸代の顔を見つめた後、フッと笑った。
「しょうがねぇなぁ。食わしてやるよ。」
「本当ですか!?ありがとうございます♪」
そう言って嬉しそうな笑みを浮かべた幸代に海斗は心が和んだ。
(部下に心配かけちゃいけねーよなぁ。)
ふとそう思った。口にはしないが瀬奈の事で苦しむ自分を心配してくれている事には気付いていた。それが厚かましくなく、何気ない気遣い、優しさで自分を心配してくれる幸代には感謝していた。が、いつまでも幸代に心配かけるのは申し訳ない。海斗は幸代の為に元気を出そうとした。
「幸代、家来るついでに釣り行くか??」
「釣りですか??行く行く♪」
「俺も暫く行ってないからなー。腕が鈍ったかも知れないから、何も釣れなくても文句言うなよ??」
「はーい♪会社の誰にも、あの釣りキチの海斗さんが何も釣れなかっただなんて事、言いませんから♪」
「ま、釣りキチの俺様が万が一にもボウズなんてあり得ないけどな!万が一にも!」
「ハイハイ、そうですね。楽しみー♪」
そんな幸代に海斗が言った。
「幸代も俺の扱い方が上手くなったよなー。」
幸代はニンマリと笑う。
「付き合い長いですからねー♪」
海斗は苦笑いし頭をかいた。
「じゃあ、私、お弁当作って行きますね?」
「はっ!?お前料理出来んの??」
「あー!酷ーい!少しぐらいは出来ますよっ!」
「マジで!?」
「マジっす。」
「…大丈夫か??」
「何がですか??」
「…い、いや、何でもない。」
「まー死にはしないんで大丈夫ですよ!アハハ!!」
幸代は楽しそうに笑った。
「ま、楽しみにしてるよ。晩飯は頑張って作るからよ。」
「はい♪」
「あー、でもマジで久々だなー、釣り。楽しみだなー。」
「朝は早いんですか??」
「朝4時集合で!」
「えー!?朝4時!?早くないですか!?」
「早く行かないといい場所取れないんだよ。いいか、絶対に送れんなよ?てか迎えに行ってやるよ。4時きっかりにな!」
「は、はい…(だからお弁当作るって言ったじゃん!絶対忘れてるよね…。今夜完全に徹夜じゃん!!これだから変人は嫌なのよっ!)」
反抗出来なかった幸代は仕事帰りに弁当の食材を買い、家に帰り寝ずに弁当を作ったのであった。
「ね、眠い…」
何とか弁当を作り終え支度も出来た。約束の4時まであと30分と言う頃に海斗から電話が来た。
「着いたぞー」
「え!?まだ30分ありますよね!?」
「社会人ならそのぐらい余裕持って行動すんのは当たり前だろ?早く来いよ。」
「もー!分かりましたよっ!!」
幸代は荷物を持ち部屋を出て行った。表へ出て海斗の車に乗り込む幸代。
「っしゃー!行くぞ!レッツゴー!!」
朝からテンションマックスの海斗に思わず苦笑いする。運転しながら良く分からない釣りの話をしてくる海斗に欠伸をしながら聞き流している幸代。熱弁する海斗を見て心の中で言った。
(お帰りなさい、変人さん♪)
と。