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THE 変人
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普通の生活-5

海斗は悩んでいた。自分は確実に瀬奈を愛している。台風の日、荒れ狂う海で瀬奈を釣り上げて出会ってから電車から飛び降り全身包帯巻きの姿になるまで、ゆっくりと時間をかけて好きになって行った。瀬奈と普通の恋愛が出来ない事は初めから分かっていた。普通ではない出会いから始まり瀬奈の病気を目の当たりにし、そして人の妻である事を知って、どうして普通に恋愛が出来るだろうか。瀬奈が自分の元から去った時、瀬奈にとっては元の生活でやり直し、幸せを掴む事が一番いい事だと思った。しかし現実には全身包帯巻きになってしまった。自分が瀬奈にとって一番幸せな道だと信じた事が、結果的に幸せにならなかった事がショックなのであった。

病院で包帯巻きの瀬奈を見た時は胸が張り裂けそうであった。「やはり帰らすべきじゃなかった!瀬奈を引き止めるべきだった!」、そう言いたかったが言えないもどかしさが、海斗から瀬奈に掛ける言葉を削りとって行った。瀬奈を救う言葉を言いたかった。でも言えなかった。瀬奈に何も出来ない自分が悔しかった。

福岡を去る時、瀬奈に別れの挨拶はしなかった。康平と美香には是非顔を見てってくれとは言われたが遠慮した。もしかしたら自分と言う存在が瀬奈のリスタートの邪魔をしてしまったのかも知れないと思い、瀬奈に合わせる顔がなかった。海斗は別れを告げずに飛行機で茨城まで帰った。ほんの2、3時間飛行機に乗れば来れる距離なのに、瀬奈との距離は果てしなく遠いような気がしてならなかった。飛行機に乗り窓の外を眺めながら、海斗の目からは涙が溢れ落ちた。

有樹には離婚届をつきつけたと聞いた。もし離婚が成立すれば瀬奈と一緒になるのに何の障害もない。康平も美香もそれを望んでいた。しかし明確な理由は分からないが、瀬奈と一緒の道を歩く事はないような気がした。勿論一緒になれたら嬉しいし、瀬奈を幸せにする自信はある。しかし瀬奈が自分に言ったある言葉がどうしても頭から離れない。海斗とは普通に会えない、必ず何かが邪魔をする…、全身包帯巻きになり弱々しい声で涙ながらに言ったその言葉に、瀬奈と自分の同じ未来を遮断されてしまうような気がした。その言葉には瀬奈の何らかのメッセージが込められているような気がした。そのメッセージが何なのか、海斗には分からなかった。

(瀬奈の事は忘れよう…)
そう決めて仕事に打ち込む海斗だが、いつも頭の片隅に思い浮かぶ瀬奈の笑顔がどうしても離れなかった。海斗から変人要素を奪っているのは苦しみなのであった。


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