イケナイコト?〜すれ違う恋情〜-2
「ど…して?……逃げない、よ?」
「さぁ、どうかな……」
兄さんの笑顔、いつもと全然変わらない。
それが逆にあたしを不安にさせた。
どきどきが、じわりと恐怖に変わる。
兄さん、あたしの額に落ちた前髪を優しく払いながら、スーツのポケットから煙草を出して、ゆっくりと火をつけた。
それも、いつもの仕草、なのに。
「…兄さん?」
「朝まで、ふたりきりだね」
兄さんの指が伸びて、あたしの唇に触れる。
たったそれだけのことなのに、心臓が壊れそうなくらいドキッとして、全身がかぁっと熱くなった。
「に…い、さん…?」
間近でじっと見つめられて、唇をなぞっていた指先が、歯列を割って中に侵入する。
指でなぞられてるだけなのに、キスされてるみたいな刺激が急に怖くなって、あたしは強く目を閉じた。
「ん…ふ……」
「震えているね、可哀相に」
唇を弄っていた指先が、首筋を伝って下に落ち胸のリボンをほどく。
「…や、だ」
ひとつずつゆっくりとボタンが外されるたび、肌に冷たい空気が触れて、兄さんの熱い指先との温度差がもどかしくて、あたしは強く首を振った。
「あきらめなさい、逃げられない」
兄さんの指、またスカートの中。
下着の上からなぞられて、あたしの体、簡単に溶ける。
兄さんの熱に溶かされる。
「…あっ…あ、あ……っ……!」
指先の熱、布越しに感じるのに、たったそれだけで体が切なくなる。
だって兄さん、まだ煙草咥えたまま、片手で触ってるだけ、なのに。
「…んっ…っ…い、やぁ…っ…兄さ、ん…っ!」
逃げようと身を捩るたび、手首に絡まったロープが食い込んで、余計に動けなくなる。
痛い。
どうして?
こんなのって、ひどい。
「…や、……兄さん、いやだ、よ」
「そう?我慢して」
兄さん、煙草を灰皿に押し付けて、縛られたままのあたしの手首に、微かに口付ける。
スカートの中の手、二つになって、ぐいって脚を広げられた。
「ほどいて、くれない、の…?」
兄さん、黙って微笑んだまま、あたしの下着に指をかけて、ゆっくりとそれを下ろした。
さらされた場所に、兄さんが、触れる。
その感触。
体が、教え込まれたばかりの痛みを、思い出す。
あたし、怖くて、どうしようもなくて、必死で首を振った。
「言っただろう?逃げられないって」
まっすぐにあたしを見つめる兄さんの瞳に吸い込まれて、一瞬息が止まる。
あたし、逃げない、のに。
好き、なのに、兄さんのこと。
ちゃんと、本当に好きなのに…信じてくれないの…?
行き場のなくなった気持ちが、涙になって落ちる。
ドロドロに溶けたそこに、兄さんの男の人の部分が、触れる。
「は…ぁ、ん!」
焦らすみたいに、なぞられて、心臓が破裂しそう。
怖い、どうしよう、怖いよ。
あたし、どうなっちゃうの?
震えてたら、兄さん、宥めるようにあたしの髪を撫でてくれた。
手のひらの優しい感触に少し安心して、目を、開けたら。
「壊れてしまいそうだね」
兄さん、ちょっと苦しそうに目を細めて、じっとあたしを見つめていた。
いつもの優しい兄さんじゃなくて、知らない男の人みたいな顔して。
「い…や………」
見詰め合ったまま、あたし背中で這うように逃げようとして、無意識に立てた膝、兄さんに捕まった。
「先に誘ったのはおまえだね?薫。もういっそ、壊してしまおうか」
膝、強く捕まれて、そのまま入り込まれて。
「あ…あっ……っ!」
あまりの痛みに言葉もなく叫んだあたしを、兄さんの唇が悲鳴ごと絡め取る。
「ん…ふ、…あ…ああっ…んっ!」
指なんか、比べ物にならない圧迫感。
兄さんがあたしの身体に覚えこませようとする痛みに、意識が消え入りそうになる。
「ぅ、あ……あ……ん…っ…!」
「なに?もういくの?まだ挿れただけなのに?」
呆れたように言いながら、兄さんあたしの腰を掴んで、少し揺らした。
「あ、あ……やぁっ!」
痛みに突然、甘い熱が混じる。
「……っぁ……っ」
あたし、無意識に兄さんにしがみつこうとして、縛られたままの両腕を強く引っ張った。
ロープが擦れてベッドを軋ませたけれど、あたしの体もう、全部兄さんに支配されて、兄さんが教えてくれる痛み以外の感覚なんて、感じていられる余裕、ない。
「あっ……いや、………は、あっ……!」
繋がった場所だけが、信じられないくらいに熱い。
あたし、制服ほとんどちゃんと着てて、なのにこんな格好で、縛られたままで犯されて、体も苦しいけど、気持ちがもっと切ない。
切ない…のに。
込み上げる甘い熱に、逆らうことができない。