なぜ…-14
「瀬奈さんは自分を信頼してくれました。そんな自分から他の女性の痕跡を感じた時、彼女の人格が変わる事に気づきました。家に帰り、同僚の女性の香水の匂いを嗅いだ時、瀬奈さんの人格は変わり自分に危害を与えて来ました。会話の中で他の女性の話題をした時に彼女は暴れました。彼女は愛する男、信頼する男からの裏切りに、浮気に反応して発症するんです。ただし自分が嘘偽りなく誤解を解いてあげると彼女は落ち着きました。初めは激しく嫉妬した会社の同僚の女性と会わせ、ただの会社の同僚だと分かってくれた瞬間、瀬奈さんは徐々にですが同僚の女性に心を開き、そのうち友達のように2人でショッピングに行くまでになりました。同僚も瀬奈さんを心配し色々努力をしてましたから、その努力を瀬奈さんも感じた結果、同僚に心を開いたんだと思います。瀬奈さんと真剣に向き合えば、彼女はそれを理解する正常な判断が出来るんです。以降、瀬奈さんの人格が変わる事はありませんでした。本人もようやくもうその病気から離れられたのかも知れないと思った事でしょう。だから瀬奈さんはここに帰る決心をしたんだと思います。今度こそ人生をやり直せると。俺はそんな気持ちが分かったからいなくなった瀬奈さんを探す事はしませんでした。」
どうしてこの男はここまで瀬奈を理解出来たのだろうと、自分の無能さに打ち拉がれた気持ちになった。
「なのに…、あなた達は何をしてるんですか…。」
その言葉に静かな怒りを感じた。全くだ、言い返せる言葉もない。康平は弱々しい視線で海斗を見つめる事しかできなかった。そしてさらに打ちのめされる言葉が続いた。
「俺は瀬奈さんがおかしいとは思わない。むしろ周りがおかしい、そう思う。考えてもみて下さい。浮気されて怒るのは異常な事ですか?普通の事でしょ!?瀬奈さんは浮気されて怒ってただけなんです。その何がおかしいんでしょうか?彼女は何か間違ってますか?」
「い、いえ…」
「浮気をされて怒って、どうしておかしい人間だって目で見れるんですか?」
「…」
「瀬奈さんはおかしくない。普通だ。おかしいのはあなた達だ!あなただって瀬奈さんの旦那が浮気していると言う事は少なからず感じていた事でしょう。なのに彼女の苦しみを見ようとしなかったんじゃないんですか!瀬奈さんの旦那だって瀬奈さんに浮気がバレてる事を知りながら浮気を止めなかった!それが瀬奈さんを苦しめていると言う事を知りながら浮気を止めなかった。瀬奈さんでなくても怒る。おかしいのは瀬奈さんではない、あなた達だ!!」
まるで頭をハンマーで殴られたような衝撃を受けた。今まで瀬奈を心配してきたつもりだが、それが上辺だけの軽いものであった事を思い知らされた。目の前の海斗が瀬奈を思う気持ちに康平は叩きのめされた。海斗の前では、自分も瀬奈を大切に思っていると、堂々と言える自信がない。親として恥ずかしい思いしか残らない。康平は海斗の視線に耐えられず目線を下に逃してしまうのであった。