『瞬きに願いを込めて……』-3
あなたは優しい人……
優しくて、残酷な人……
「恨んでほしいなら、嫌いになったって言ってよ!」
私の声は闇に吸い込まれていく。
「憎んで…ほしいなら……優しくなんか……しないで……」
優しくて、残酷で、卑怯なあなた……
想い出という名の傷痕を残し、離れた後もあなたを憎ませてもくれない……
あなたは知ってるの?
時として、優しさが何よりも人を傷つけるってコトを……
その時、ひとつの光が私の手に舞い降りた。そっと手を握り、手の平の中に淡い光を閉じ込めてみる。
もしこの光があなたへの想いなら、粉々に砕いてしまえば私の心は自由になれるのかしら……
私がゆっくり手の平を握りしめていくと、指のすき間から緑色の光が儚(はかな)げに瞬いていた。
想いを棄てて私は自由になる……
手の中で想い出がもがき苦しんでいた。まるで私の心の断末魔のように……
違う……私はこんなコトをしたい訳じゃない!!
溢れ出る涙とともに手の平から力が抜けていく。
ずっと一緒にいたかった。あなたの妻となって、支え合う人生を夢見ていた。
もうその願いは叶わないとしても、あの日々は私にとってかけがえの無い大切な想い出だったはず。棄てるコトでからっぽになった心を埋める術(すべ)なんて私にはわからないもの。
「やっぱり、あなたを憎むなんて出来ないよ……」
ならば……せめて、この蛍に想いを託そう……
私にとって何よりも大切だったあなたへの想いを。
手の平を広げると、少しだけ留まったあとに蛍は舞い上がり、やがて無数の光に紛れてもう飛び立った蛍がどれなのかわからなくなる。
「あ……星……」
飛び交う光の遥か先、きらめく夜空が瞬いていた。
「……綺麗……」
降り注ぐような満天の星空を見上げて私は呟いた。そういえば、こうして星空を見るなんていつ以来だろう……
次第に心に平穏が戻ってくる。想いを託した蛍はやがて、天に昇って星になる。私は漠然とそんな風に思った。
願わくば、あの日々のきらめきが永遠に夜空で輝きますように……
この場所にあなたへの想いを置いて新しい私になろう……そしていつかあなたと再び出逢うコトがあったなら、とびきりの笑顔を見せられる私になるんだ。
強がりでも負け惜しみでもなく、自然とそう思えた。
「なんだかお腹が空いてきちゃったな……」
不意に零れた言葉に私は小さく笑う。今ならきっと美味しく食べられるはず。
きっと……
数日後に私はまた都会の喧騒に帰って行く。
どんなに時間がかかっても新しい自分になる為に。
そしていつの日か再びこの場所で、あの頃の想い出を笑顔で見上げると心に誓って……