お持ち帰りされる新人OL (1) 清く正しく美しく-4
「嬉しいな、来てくれたんだ」
「うん、もう少しお話したいなって」
「奇遇だね、俺もゆきさんとキスしたいなって」
「うふふ、バーカ」
いたずらっぽく笑うG。不思議と嫌な気はしなかった。
話してみるとGはなかなかの遊び人で、そのことを隠そうともしない。ゆきはこの人でよかったと思った。Fの引力が弱まっている今、もし誠実で優しい人だったら、雰囲気に負けて思わぬ事故が起きかねない。
例えばそう、Oくんみたいな人とこんなお店でデートしたら――密かに思いを寄せるOとの「事故」を想像しニンマリするゆき。ショートケーキのイチゴをあーんしてついでにキスしちゃおうかな、いやいやそんな大胆なことできるわけないよ、そもそもバーにショートケーキは置いてないって、いけないいけない一人の世界に入ってた、変な人になってる私。まあともかく、Gくんなら浮気しないで済みそう。それでいて会話は楽しいし聞き上手でどこか落ち着いた雰囲気がある。何よりイケメン。
たまにはいいな、こういうの。FくんOくんごめんなさい。今日は久しぶりに違う男の人とのデートを楽しんで、ちょっとドキドキして、少しだけときめかせてください。何もしませんから。あれ、なんで私Oくんにも謝ってるんだろう。
肩と肩が触れ合う二人の距離はいつしか腕までぴたりと密着している。そうそう、このドキドキ感っていいよね。
気がつくと手のひらを合わせ、指を絡め合っている。あれ、こんなことまでしていいのかな? でも大きな手が気持ちいい。もう少しこのまま。
「ゆきさんまだお話したいって思ってる?」「思ってない。このままもう少しこうさせて」
Gの肩に寄りかかり頭を預ける。あれあれ、何してるんだろう? まずいまずい。ほんのり酒がまわり世界が回る。まずいまずいまずいまずい。
「Gくんはまだ……わたしとキスしたいって……おもってるの?」
「セックスしたいって思ってるよ」
「ばーかばーか」
次の瞬間、Gの手がゆきのあごを捕まえ引き寄せた。唇が奪われる。一秒、二秒――。
酒臭い息を交換してもう一度。きすしてもらいやすいようにかおにかくどをつけてみよう。あれれなんでそんなくふうをしてるんだろう。きすしちゃいけないのにきすするくふうってするひつようある?!?!?!?!わかんないけどきもちいいなあずっとこうしていたいなあ。
唇が離れ我に返るゆき。危ない危ない、いま気を失いかけてた。
酔っているところでキスしてのぼせて口をふさがれ、脳が軽い酸欠状態になってしまったようだ。酒臭い息を嗅がれたくないと無意識で息を止めたのも良くなかった。深呼吸して水を飲む。
「大丈夫? ゆきさん」
「ありがとう、なんか頭がぐるぐる回って変になってた。私変なことしなかった?」
「情熱的なキスをしてたよ」
「ふーん、なんにも覚えてない」もちろん嘘。仮に記憶が飛んでいたとしても、唇に生々しい感触が残りすぎている。
「忘れちゃった?」
「うん。Gくんの勘違いでしょ。飲み過ぎじゃない?」
「そっかー。しょうがない、もう一回しよう」
「って、もうしてるくせに……」
さっきからGがゆきの頬にキスしてくるのだ。何度もついばむようにチュッチュチュッチュと唇を押し付けてくる。「うーんゆきさん、いい匂い。素敵なお姉さんの甘い匂いがする」何言ってんのこの人。どうしよう、ちょっと楽しい。
「人の顔で遊ぶなー」
「遊び人だからね」
「この遊び人めーー」見つめ合う。唇を軽く突き出してやると、その場所にGが唇を重ねてきた。
「ゆきさんともっと遊びたいなあ」
「弄びたい、でしょう?」
「弄びたい。ゆきさんは、弄ばれたくない?」
彼氏持ちだと知っていながら、平気な顔で一夜限りの関係を提案してくるGに呆れてしまう。二人きりの三次会に誘われたときからもうずっと彼のペース。そのペースに身を任せてしまいたいと考えている今の自分。どういうことだ。私はこの男と付き合えるの? いやいや絶対にありえない。
でもこのままじゃ確実に唇以外のものも奪われてしまう――生まれてはじめてのワンナイトラブの予感にゆきの胸の鼓動は高まった。これが大人の恋なのかな? いいのかな、いいのかな?
「ん――」
キスのおねだりで返事をするゆき。
はっきりした言葉で返事はしたくありませんけどあとは勝手に解釈してください、FくんOくんごめんなさい。
十分後、ネオンが妖しく煌めく繁華街のラブホテルに入っていく二人の姿があった。
ゆきの手はGの腕にしっかり巻きつけられていた。