未来・富樫菜穂子-1
「亮介、この人知ってるの?」
「ああ……」
テレビに見入ってしまい、未来へ生返事を返す俺だった。
感慨深いものがあった。
ついに富樫菜穂子がレギュラー番組を獲得したのである。
以前、看板番組が実現しそうになってポシャった経緯を俺は知っている。
というより、ご破産になる原因は、他ならぬ俺が作ったようなものだった。
それでも菜穂子は実力と運をもって仕事を勝ち得た。
国営局の短時間枠ではあるが、教養的音楽番組のナビゲーターである。
俺は菜穂子本人からのお知らせを受け、テレビにかじりついてチェックした訳である。
クラシックからポピュラーまで幅広く扱う内容で、局のベテランアナウンサーと菜穂子の二人が司会をつとめる。
時おり菜穂子が、取り上げられた音楽をアレンジして演奏するというコーナーがあって、そこでピアノを弾く菜穂子はまさしく水を得た魚。活き活きとして光り輝いていた。
「綺麗な人だよねー。ピアノもすっごい上手いし……亮介にこういう世界の知り合いがいるなんて、びっくりだよ」
未来も菜穂子の姿に見惚れていた。
「超美人だろ? けどセックスのときはブヒブヒ臭い屁ぇこきまくってアホみたいな顔してよがりまくるんだぜ」
未来が飲みかけたほうじ茶を噴いた。
「なっ……知り合いって、そういう意味での……!?」
俺はニヤニヤして画面の中、艶めかしいカクテルドレス姿で演奏する菜穂子を眺めた。
「久しぶりに菜穂子とヤリたくなってきたな〜……未来も見てみるか? この澄ました顔の美人ピアニストが肛門緩みっぱなしで肉欲貪る浅ましい姿」
「いや……信じられないんだけど。この人がそんな……?」
「会ってみれば分かるって。イジり甲斐のある可愛い人だから、未来もきっと仲良くなれるよ」
早速スマホで菜穂子にメッセージを打つ俺だった。
番組の感想を送ると共に、デートの申し込み。
ただし、俺は女房同伴で行くことも漏らさず書き添えた。
テレビ出演のお祝いを菜穂子にしてやると同時に、俺たちの結婚も祝ってくれるように……という訳だ。
互いに言祝ぎ親愛の情を深めるのには、ねっとりじっくりと身体全体で語り合うのが一番というものではないか。