本番に向けて 合宿1日目 その1 -6
数秒後、愛依は目を開けた。
目の前に倫也の顔があった。
愛依は慌てて倫也の身体を引き離し、驚き切った目で倫也を見た。
「な、な、なに、するの、さ。」
「驚いた?」
「驚くに決まってるでしょ?いったい、何、考えてんだか。。。」
「いやだった?」
「いやもどうもこうもないでしょ。
いきなり、全く、何を考えぅぐ。。」
再び倫也の唇が愛依の口を塞いだ。
「???」
いきなり、愛依が飛びのいた。
「ど、ど、どうしたの?愛依ちゃん。」
「わたしの、わたしの、、、」
「えっ?どうした?」
「わたしのファーストキスーーーーー!!」
愛依はしゃがみ込み、激しくしゃくりあげた。
「ゥェッ。ゥォゥゥッ。ゥゥゥ。。」
倫也は、呆然と愛依の姿を見下ろしていた。
(そうだった。愛依ちゃんにとっては、
男との、ちゃんとしたキスは、初めてだったのだ。
無理やりに唇を奪われ、男に舌をねじ込まれるようなことは、
悲しいかな、経験していたのかもしれないが、
きちんと、男と対して、キスをしたのは、初めてだったのかもしれない。
「愛依ちゃん。ゴメン。オレ。オレ、あの、
愛依ちゃんのこと、励ますつもりで、
あの、その、つまり、、ゴメン。」
「なんで?なんでなの?なんで、ゴメンなの?」
愛依が顔じゅうを涙でぐしゃぐしゃにしながら顔を上げた。
「愛依ちゃん。オレ、なんて言えばいいのか。。あの。」
「だから、なんでゴメンなの?」
愛依は、倫也にすがりつくようにして立ち上がった。
ジャージの袖で涙と鼻水を拭いた愛依は、
まだ涙があふれ出てくる目で、
倫也の顔をしっかりと見つめ、言った。
「ワダシ、ウレシガッダンダヨ。(ズズッ)
初めて、グジュ)生まれて初めてオドゴノヒトニ(ズズッ)
男の人にやさしく(ジュルジュル)抱き寄せてもらいながら、
キスしてもらったの、初めてだったんだよ。」
そこまで言うと、愛依は再び大声を上げて泣き始めた。
「ウワーーーーン。ブゥェェェーーン」
倫也は愛依の背中をそっと撫でた。
「愛依。」
「ドモヤグ〜ン。」
二人の唇が再び触れ合おうとした瞬間、
愛依のスマホのアラームが鳴った。
「あ、ごめん。わたし、行かなきゃ。」
「行くって、どこへだよ?」
「準備、しなきゃ。」
「準備って?」
「次の、全体ミーティング。」
「今じゃなきゃダメなの?」
「ごめん。今からじゃなきゃ間に合わない。」
「やらなきゃダメなの?」
「やらなきゃだめだ。」
「せっかく愛依ちゃんと同室になったのに、何にもできないね。」
「ごめん。わたしも、今気づいた。」
「あ〜あ。でも、愛依ちゃんらしいっていったら愛依ちゃんらしいけどね。」
「ホント、ごめん。」
「いいよ。行っておいで。」
「いいの?」
「行かなきゃ、困るんでしょ?3Cのみんなが。」
「うん。ありがと。ホント、ごめん。」
「いいって。それより、なんか方法、考えなよ。
この調子で言ったら、愛依ちゃん、寝る時間もなくなるよ。」
「うん。そんな気がしてきた。とりあえず、行ってくる。」
「うん。行ってらっしゃい。」
愛依は慌ててドアを開け、出て行こうとしたが、
ドアのところで、中を振り返った。
「倫也君。ありがと。ホント、ごめん。
続き。いつか。必ず。じゃ。」
「なんだ、愛依ちゃんのしゃべり。昔のロボットみたいだな。」
倫也は愛依が去った後のドアを室までも見ていた。
(あ〜あ。ふられちゃった。。)
(ん?続き。いつか。必ず。。。???)