イケナイコト?〜兄の本音〜-1
少し前、オレは実の妹を抱いた。
薫はオレより10歳下の、現役女子高生。オレの勤める学校の生徒だ。
抱いた、とは言っても、キスをせがんできた薫に流される格好で、指でイかせてやっただけなのだが。
昔から仲のいい兄妹ではあったのだが、まさか妹がそれ以上の気持ちで自分を見ていたなどとは夢にも思わなかった。
薫は兄のオレから見ても、相当に可憐で可愛らしい美少女。
フランス人形のような顔立ちに、くるくるのくせっ毛をショートカットにまとめ、明るく活発で同級生の間でも人気者。
当の本人は、兄であるこのオレに必要以上に可愛がられ、温室育ちでやや世間知らずのままに大きくなってしまったものだから、素直で人を疑うことを知らず、いまどき珍しい純粋培養のお嬢様のような子に育ってしまった。
そのおかげでセックスに対する知識がすこぶる浅く(オレが絶対教えないようにしてきたのだから当たり前なのだが)、ただ触れ合っただけの前戯だけで、オレと最後までできた、と勘違いしている。
彼女とのあの晩を後悔しているオレにとっては、もういちど迫ってこられるよりは好都合なことではあるのだが。
血の繋がった彼女と兄妹以上のスキンシップを持ってしまったことに対して、オレは少なからず罪悪感を抱いていた。
ふとした拍子に思い出さずにはいられない、薫の白い肌の温もり。手のひらに収まる弾力のある胸。小さいけれど美しいその先端の甘い香り。吸い付くような唇。指先に絡みつく、妹の中の女の部分。
あれから何度、想像の中で彼女を犯したか知れない。
泣き叫ぶ妹の髪を掴み、幼い身体を陵辱する自分。
オレに従順なまでに信頼を寄せる薫は、想像の中ですらそれを拒む術を知らない。
誰よりも大切で、愛しいオレの妹。
今度彼女に触れてしまったら、オレはもう、自分を抑えることができないだろう。
今度こそ途中で止めることができず、最後まで欲望を満たしてしまうだろう。
それが、怖くて。
あの晩以来、オレは家でも学校でもほとんど薫の存在を無視しながら過ごしていた。
それで彼女が傷ついていたとしても、実の兄から身体中に所有の証を刻み付けられることよりは、よほどマシだと思えたからだ。
あの瞳にもう一度でも見つめられてしまったら。
欲望のままに教えてしまうだろう。
オレが最も喜ぶ感じ方を。
心よりも、身体に先に。
そして薫は、決してそれを拒むことはできないのだ。
それだけは、何としても避けなければならなかった。
大きな窓から夕日が差し込む、放課後の音楽室。
翌日の授業で使う資料を作り終えて、ため息混じりに大きく息をつく。
ずいぶん遅くなった。
これで今日も、薫と顔を合わせずに済むだろう。
ほっと一安心しながら立ち上がり、外に出ようと扉に手をかけたところで、思わず息を飲んで立ち止まってしまった。
音楽室の扉の外、両腕の中にカバンを抱きしめるようにして壁に寄りかかりながら、薫が佇んでいた。
「あ…」
目が合うと、すぐに気まずそうに俯いてしまった。
どうした?と優しい声をかけてやりたくなるのをグッと我慢して、オレはわざと、冷たい無表情を取り繕う。
「まだいたのか。何か用か」
「兄さん、あの…」
「学校では先生、だろ。用がないならさっさと帰れ」
「あ…ごめんなさい…」
大きな瞳に、うっすらと涙が浮かぶ。
そのあまりにも儚げな姿に、年甲斐もなく心臓がドキドキと高鳴ってしまう。
こんなに近くで声を聞いたのは、ずいぶん久しぶりだった。
自分から彼女を避けていたのだから、当然といえば当然なのだが。
「謝ろうと、思ったの」
薫はぎゅっと唇を噛みながら、蚊の泣くような声で小さくつぶやいた。
「兄…先生、ずっと怒ってるみたいだったから…あんな、あんなことさせちゃって、あたし…」
胸の前で重ねた両手は、小刻みに震えていた。
言葉を詰まらせながら浮かび上がった涙が、ぽろぽろと床にこぼれ落ちる。
「ごめんなさい………」
その姿はあまりに繊細で、思わず抱きしめたい衝動に駆られる。
オレは両手を強く拳に握り、理性を保とうと懸命に堪えた。
「話は、それだけか」
冷たく響くオレの声に、薫はびくっと肩を震わせ、怯えたような瞳でじっとこっちを見つめる。
「終わりなら、早く帰りなさい」