第5章 両想い-8
「あ、おはようございます。」
会社の玄関でばったり涼子と会った隆文。
「あ、お、おはようございます…」
お互いがぎくしゃくしている事には気付いている。2人とも完全に意識している。つい先日までは何気に言えた言葉が隆文には言えなかった。
「すっかり寒くなって来たね…」
「そ、そうですね…」
「…」
「…」
会話が続かないまま階段を昇る。
(これでヤリたいって言ったらもっと最悪な雰囲気になるよな…)
隆文はそう思っていた。一方涼子は、
(いきなりハイって言ったらおかしいし、この間みたいに今日はダメって言ったら今日じゃなければいいって言ってるようなものだし、どうしよう…何て答えよう…)
ある意味誘われるのを待っていた。しかし2人とも沈黙したまま階段を登り切ってしまった。
「じ、じゃあ今日も一日頑張ろっ…」
「あ、は、はい…」
隆文は事務所に、涼子は更衣室に入って言った。
(な、何だよ、今日も頑張ろって!?馬鹿か俺は!)
思い切りおちゃらけてヤラせろと言えば良かったと後悔する。
(今日は誘ってくれなかった…。私がよそよそしかったからかな…。どうしよう、もう誘ってくれなかったら…。岸田さんは別に私としなくても他にいっぱい抱ける子いる訳だし、毎日断られてまで私とする必要ないもんね…。もう誘ってくれなかったらどうしよう…)
涼子は涼子で落ち込んでしまう。事務所に入る足取りが重い。机を拭きに隆文の元へ行きづらい。涼子は隆文の列を愛美にお願いし、涼子は隣の列を順に拭いていく。
(中村さん、俺を避けたよな…。ヤバイ、とうとう嫌われたかなぁ…)
あからさまにヤリたいと言われて、とうとう嫌になられたのかと思いブルーな気持ちになった。そんな所へ愛美が机を拭きに来た。
「おはようございます♪」
「おはよ!」
愛美は笑顔だ。その笑顔につられて頬を緩める。
「昨日は彼氏とのエッチ、物凄くつまらなく感じちゃいました。エヘッ」
隆文の耳元でそう囁いた。思わずデレっとしてしまう。
「早く涼子さん誘わなきゃダメですよ??」
「あ、ああ。分かったよ…」
隆文がそう言うと愛美はニコッとして隣の机に移動した。その様子をさりげなく見ていた涼子は愛美が羨ましくなる。
(もいエッチすれば私もあーゆー風に接せるのかなぁ…)
そう思い溜息をついたのであった。
その様子を見ていた穂花はヤレヤレと言った感じで溜息をつく。
(全く手がかかる大人達だこと…♪)
穂花は2人をくっつけるべく次なる作戦を考えるのであった。