未来が見えない(処女、ちょっとホラー)-9
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玲佳はいつもより少しだけおしゃれをして急ぎ足で歩いていた。踏切を越えてしばらく進めば、居酒屋通りの裏路地に辿り着く。朝の通勤ラッシュのこの時間に営業している飲み屋は無い。彼女の目的は他にあった。そこには彼がいるのだ。似合わない髭を生やし、必要の無い水晶玉と筮竹を白い布を敷いた机に並べ、来るはずも無い客を待っている。
驚かせてやろうと思った。彼が寿命として予言した三日目になってもまだ彼女が元気に生きている姿を見せつけてやるのだ。そしてそのあとは……。
にわかに降り出した雨を煩わしく思いながら先を急いでいると、カンカンカン、と警鐘が鳴り、踏切の棒が下り始めた。玲佳はダッシュした。この踏切は一度閉まるとなかなか開かない。少しでも早く彼に生きている姿を見せたい玲佳は、いつもならしないムリをした。その時。履き慣れていないパンプスのかかとが雨で滑り、獲物を待ち構えるように口を開いたレールの隙間に呑み込まれた。
ゴウ、という地響きと共に、パァーンと警笛が迫ってくる。ギギギギギーっと鉄と鉄が擦れ合い火花を散らす。
「ウソ……」
玲佳は動けない。
巨大な重量物が、踏切を通り過ぎた。