ヌードモデル(露出、熟女)-3
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会議室の中央にシンプルな木の椅子が置かれ、そこに玲奈が座っている。全方位からモデルを観察出来るようになっているのだ。ひび割れそうな程に顔がこわばっているが、彼女の瞳には決意の色が浮かんでいる。
「それじゃあ始めようか。玲奈さん、あらためまして、よろしくお願いいたします」
お願いしまーす、という小さな声が会議室にいくつか響いた。玲奈は無言で小さく会釈した。これから自分が何をするのかを考えると、とてもじゃないけれども声を出せるような状態ではないのだ。服を脱いでいき、その姿をさっき会ったばかりの若者たちに見られる。少しずつ素肌を晒し、そして最後には。
「玲奈さん?」
玲奈は、はっと顔を上げた。あまりにも緊張しすぎて、悠也に話しかけられたことに気付かなかったようだ。
「あ、はい、ごめんなさい」
「ラクにして下さい。いきなり噛み付いたりするような危ないヤツは……一人しか居ませんから」
「オレっすか、それ、オレっすよね、へへ」
みんなの視線が塚堀にあつまり、小さな笑いが起きた。
「大丈夫よ、噛み付いてきたら蹴飛ばすから」
おおー、という声が会議室内に残響する。思い切ってやりかえすと、玲奈は少し気持ちが楽になった。固い表情になっていた悠也にも笑顔が戻っていた。
「いいですねえ、女神様に蹴られるなんて、幸せ者ではございませんか」
江坂の台詞に、さっきよりも大きめの笑いが広がった。これがきっと普段の彼らの雰囲気なのだろう。なごやかだ。そして若い。ゲーム制作の現場は、実力主義なんて言う生やさしいものではない。必死に知恵を絞り、命を削って頑張っても、感性が枯れ長時間に及ぶ精神的重労働に耐えられなくなった者は消え去るしかないのだ。いつか必ず来るその時を、彼らはまだ想像もしていないだろう。自分の周りに年長者がほとんどいない理由を考えれば分かることなのだが。今はまだ。今はまだ、彼らは若い。
「さてみんな。まずは着衣状態だ」
カメラを構える者、スケッチ帳にペンを走らせる者、腕組みをして見つめる者……それぞれのスタイルで玲奈を観察している彼らに共通しているのは、少しでも多く何かを得ようとする真剣な目だ。ふざけてばかりの塚堀でさえ、別人のように口元を引き締めてペンを握っている。
パシャパシャ、とフラッシュが光った。
「おいこら、誰だ? フラッシュなんか焚いたら微妙な陰影が拾えないだろうが」
光永の剣幕に、押し黙る制作メンバー。そのうちの一人、小柄な女の子が、おそるおそる彼が持っている一眼レフカメラを指さす。その内蔵フラッシュは、見事にポップアップしていた。
「てめえじゃねえか」
塚堀が、笑いながら光永の豊かな腹にポヨンと裏拳を当てる。
「うっぷ……ごめん」
再び訪れた和やかな空気の中、悠也が玲奈に指示を出した。
「それじゃあ玲奈さん。ワンピースの背中のファスナーを下ろして下さい」
若者たちの笑いに溶け込んでいた玲奈の頬に、不意打ちのように緊張が走る。彼女は笑いに来たのではない。服を脱ぎ、それを見られるためにそこに居る。
「いけます? 玲奈さん」
悠也が少し心配そうに声を掛けた。玲奈は硬い表情ながらもしっかりと頷き、背中のホックを外してファスナーを少し下げた。視線が集中した背中に、むず痒いような圧力を感じて身を縮める。
「もう少し下げてもらえます?」
玲奈は僅かに眉を寄せた。
「ごめん、自分でやろうとすると、ちょっと下品なやり方になっちゃうの。悠也くん、下ろしてもらえる?」
おお、というざわめきの中、エロいっすねぇ、という塚堀の声が妙に通って聞こえた。
ジー、っという音と共にファスナーが半分ほど下ろされると、艶やかな光沢を放つシルキーな生地の、ライトブラウンのブラが姿を現わした。大人っぽい下着だ。二段階有るホックは、緩い方に掛かっている。それはつまり、それだけ胸が大きいということを現わしている。
「一番下まで下げますね」
玲奈はコクンと頷き、少し俯いた。さっきよりも長くジー、っと音が続き、ファスナーのタグは腰ベルトの少し上あたりまで開かれた。
「外します」
「えっ?」
振り返ると、思いのほか近いところに悠也の顔が有った。彼はブラのホックのあたりを見つめている。
「順番に脱ぐんじゃないの?」
「背中が凄く綺麗だから、早くみんなに見てもらいたいんですよ。ダメですか?」
頬に朱が差すのを自分でも感じながら、玲奈は小さく頷いた。
ホックを外されたブラが反動で緩み、ワンピースの中で浮いた。そして、隠す物が何も無くなった白い背中が完全にオープンになった。姿勢良く真っ直ぐに座った彼女の背中には、背骨に沿って健康的な窪みが出来ている。三十六歳だというのに、いや、三十六歳の今だからこそ、きめ細かく産毛の浮いたその肌はしっとりと滑らかに潤い、透き通るような皮膚の所々に静脈が薄く浮き出ている。ブラのあったところに跡が着いているのも、肌の柔らかさを強調して見せている。
悠也の手のひらが玲奈の背中に近づいていく。