7月:予期せぬこと-6
そのあっという間の引き際に苦笑いをして
「じゃぁ行こうか」
そう言って地下鉄の階段を降りようとする秋田さんを止める。
「本当に大丈夫です。もう遅いですし、秋田さんが帰れなくなっちゃいますよ」
「送るのは、遅いから。だろ?」
「・・・・」
「大丈夫。送っていくよ」
その言葉に、数歩小走りをして秋田さんの横の階段をおり始める。
「彼氏、ドイツだって?」
「・・・・はい」
「そっか。寂しいな」
「・・・・」
ほんの少し気まずくなった雰囲気は、秋田さんの今日のバンドの話で
すぐに払しょくされた。
午前中に降っていた雨は止んで
「折りたたみにして良かった」
ポツッっと言った言葉に
「もうすぐ梅雨明けだな」
そう答える秋田さんに
あぁ、この人とは同じ季節を感じられる距離に居るんだ―――
普段は誰と会話しても感じることのない当たり前の感情が
胸の中にバーっと広がった。
今自分のいるその季節を説明しなくても同じ肌で感じてる。
「今度は花火でも4人で行こう」
その言葉を、ほんの少し楽しみに喜んでしまう私は
自分の心の揺れに気が付いていなかった―――
7月の花:ホテイアオイ
花言葉:揺れる心