桃香語り(2)-2
「幸也に頼むのは、おっぱいの、調教、のみ。それ以外のことは頼まない‥‥いや、あらかじめ禁止させてもらうよ?」
「‥‥‥‥」
幸也は黙り込んでしまいました。世間知らずのお坊ちゃんだと思っていた幸也は、わたしの予想よりもずっとしんちょうで、わたしの話にすぐ飛びつくようなことはせず、じっと聞き入っていました。
しかたなく、
(自分のペースに持ち込まなくちゃ‥‥)
と念じながら、わたしは続けました。
「――そして、期間中は、わたしの命令に従うこと。いーい? これを守ると約束してくれないなら、この話はなかったことにするよ? わたしは、また別の誰かをあたるからね。白香お姉ちゃんのおっぱいに目をつけてるのは、あなただけじゃないんだから――」
「でも、さあ‥‥。桃香くん――」
しかし、そこで思いもかけず、幸也の落ち着き払った言葉が返ってきて、わたしはびっくりしてしまいました。
「――え、え?」
「それはそうだとしても、僕がいいと考えたから、君は僕を誘うんだろ?」
「そ、それは、まあ、そう‥‥だけど‥‥」
わたしがへどもどしていると、幸也は言葉を選びつつ、続けました。
「――あの白香さんのおっぱ――あ、い、いや‥‥。‥‥あの人の魅力にひかれているのは、たしかに僕だけじゃないだろう。だけど、また別の新しい人をさがして、その人に一から話すのは、君も大変なんじゃないの? きっと、こうやって僕に悪だくみを持ちかけてくる前に、いろいろした準備してきてるんだろ? その人に断られたら、それ全部、また一からやり直し、だよ?」
「う‥‥それは、大変、かも‥‥」
痛いところを突かれ、わたしは詰まってしまいました。幸也の言うとおりに思えました。「舌準備」というのは、
(舌で、ペロペロすることかな‥‥。おっぱいか、それともアソコを――)
と、なにかいやらしい意味だとはわかったのですが、馬鹿にされるのがいやなので、聞き返しませんでした。頭を抱えてしまったわたしに、彼は、さらにたたみかけてきました。
「その人が大人なら、君みたいなコの話を、まともに聞いてくれると思う? 候補は、絞られるんじゃないの?」
「こうほ‥‥? あ、候補――‥‥」
幸也の、眼鏡の奥の目が、涼しく光っていました。レンズ自体も、わたしのさっかくなのか、緑に光って見えたりしました。わたしは頭を振りました。
「えらそうに条件なんか出してないで、君のほうが僕に頭を下げて頼むべきなんじゃ――いや、頼んだほうが、いいんじゃないの? いろいろと」
「ぐ、ぐぬぅー‥‥」
わたしは、首とわきに冷や汗を感じていました。幸也は、物静かなだけで、わたしが思うよりもずっとずっと、手ごわい奴だったのでした。だけど、そういう奴ほど、
(味方にできれば心強いかも‥‥)
とも思いました。それで必死になって、わたしは幸也の説得を続けたのでした。
幸也の意外なほどの強敵ぶりに、わたしの心は自然と、もうひとりの男性のことを想い出していました。大人の。そして、わたしに対して優しい‥‥。
「ほ〜ら。たかい、たかーい」
‥‥‥‥。
わたしは片桐さんにあれをされたとき、本気で感じてしまっていました。鷲づかみじゃないけれど、体重全部をそこにかけられた圧力で、すっかり敏感になっていたオッパイから、あの電流みたいなのが、鈍く重く、全身に走ったのでした。それはすぐに快感に変わり、わたしはあっという間に、その虜となってしまったのでした。