策略の赤い縄-1
「言うべきかどうか迷ったんだけど……」
目隠しをした玲奈の手を引きながら、瞳美が呟いた。
玲奈は口元に静かな微笑みを浮かべた。
「教えてくれてありがとう。おかげで決心がついたわ」
妙に足音の響く狭い廊下をしばらく進んだ二人は、大きな金属製のドアをギィ、と開けて、すえた匂いのする地下室に入った。そこは、天井からぶら下げられたいくつかのスポットライトのみに照らされた、薄暗く陰湿な空間だった。壁、床、天井の全てがコンクリートの打ちっぱなしで、もちろん窓は無い。換気の音だけが静寂の中に不愉快なノイズを流している。
「玲奈さんが性具のモニターをやってまで仲直りを模索してるのに、あまりにも非道いと思って」
ここに来る前に瞳美に見せられた写真には、大きな黒い車の運転席と助手席に座った幸弘と麗華が写っていた。二人は、唇を重ね合っていた。
「それも、江島が玲奈さんを抱いたのと全く同じ車を、わざわざレンタルしてよ? ワケ分かんない」
「そうする必然があったのよ。私をここに誘導するために。そうでしょ? 幸弘さん」
目隠しをされ、何も見えなくても、玲奈には分かるのだ、愛する夫の気配が。
「いや、僕は……」
動揺する幸弘の声が、ボワンとした緩い残響となって消えていった。
「おいおい」
江島が話に割って入った。
「奥さん自身がやるって言ってるんだから、今更お前が迷うなよ、幸弘」
玲奈が江島の声のする方へと顔を向けた。彼が居ることは予想していたようで、特に驚いた様子は無い。
「なんだと、お前には関係ないだろ!」
幸弘は苛ついている。
「関係ある、と思うけどなあ」
瞳美が落ち着いた声でなだめた。
「玲奈さんは江島に三回も抱かれた。最初は幸弘さんに見せるために車の中で。次は幸弘さん、あなたの依頼で後ろから襲われて。そしてスタジオでは、幸弘さんが私と絡んでいるところを見せられながら」
「……何が言いたい」
「要するにね、全部あなたに原因があるのよ、幸弘さん」
瞳美の指摘に、幸弘は言葉を返せない。
「というわけだ、立野くん。そして今日も、君を喜ばせるために、心も体もボロボロにされるのを承知の上でここに来た。そうだね? 玲奈くん」
玲奈が目隠しの下で目を見開いた。
「その声……まさか! 加際先生?」
「そうとも。元気そうだねえ、我が愛しき教え子よ」
加際は楽しそうだ。
「もう一度訊くよ。覚悟は出来ているのかね? 玲奈くん」
見えない加際の方にまっすぐに顔を上げ、玲奈は、はっきりとした声で答えた。
「ええ、先生のしたいようにして下さい」
「玲奈……」
玲奈は幸弘の声の方に向き直った。
「誰に抱かれても、私の心はずっとあなたの元にあったのに、あなたは違うのね、幸弘さん。だけど、私はあなたを取り戻す。その為になら……」
「よし、おしゃべりはここまでにしよう。玲奈くん、服を脱ぎなさい」
加際の声に玲奈はうなずき、シルキーな素材のブラウンのブラウスに手を掛けた。スルリ、スルリ、とボタンが次々に外されていき、清楚な淡い水色のブラが姿を現した。
脱いだブラウスを瞳美に手渡した玲奈は背中のホックを外した。中身に押し上げられて、ブラがフワリと浮き上がる。
肩紐を外して手を離すと、それは、ハラリ、と冷たいコンクリートの床に落ちた。スリムな体に似合わず豊満な乳房がボロリ、とこぼれ出て弾んだ。陶器のように滑らかで、透き通るように白い肌の所々に、青く細い静脈が走っているのが見える。
その膨らみは重そうなのに少しも垂れてはおらず、力強く前に張り出して静かに揺れている。先端には桜色の乳首がコリっと勃ち上がっており、これから行われるであろう事への覚悟を示していた。
「久しぶりだねえ。相変わらず素敵な……いや、あの頃よりもずっとよく熟れて、ずいぶんと美味しそうじゃないか」
「味を確かめてみてはどうですか、先生」
「おや、言うようになったねえ」
加際の細長い指が、玲奈の乳房へと伸びる。そして繊細なタッチで、しっとりとした手触りの肌を這い回った。
「あ……」
緊張でやや乾いた玲奈の唇から吐息が漏れる。
「感度もいい。ほんとうにいい女になったねえ。この後が楽しみだよ」
加際が玲奈から離れた。
「さあ、下も脱いで全部見せなさい」
「はい、先生」
玲奈はベージュのチェック柄プリーツスカートのホックを外し、ファスナーを下ろした。そしてそれを床に落とすと、ブラとお揃いの淡い水色のパンティに手を掛け、加際に背を向けて、一瞬の躊躇いの後に、スルリと膝まで一気に引き下ろした。
キュと絞れたウェストから続く尻は意外なほどに豊満で、その無垢な肌には産毛が浮いて見えている。それは、質量が大きいのに少しも緩むこと無くプリっと張り出しており、ムッチリと肉付きの良い太股へと繋がっている。
再び加際の方に向き直った玲奈の控えめな翳りの中に、縦に走る渓谷への入り口が微かに見えている。
玲奈は片足ずつ上げてパンティを足首から抜き取った。その時、足の付け根がチラリと見えたが、その小高い丘に走る割れ目は少しも開いていなかった。
「素晴らしい……まさに完成された女体だな」
加際が心からの感嘆の呟きを漏らし、玲奈の唇に自分のそれを重ねた。
「ん……」
不意を突かれた玲奈は、少し眉を寄せた。