見られてる-1
「それでは、お車の用意が出来ましたので、現地をご案内したいと思います」
きちんとしたスーツ姿の大柄な男が、店頭のカウンターで待っていた立野玲奈に、にこやかに声を掛けた。
音大を卒業後、精力的な演奏活動をする一方で大学の講師を務めていた幸弘は、准教授への昇進が決まり、学外に弟子を持つことを許された。そのためのレッスン場を探しており、今日は忙しい幸弘に変わり、妻の玲奈がその候補地を不動産屋の案内で見ることになっていた。
助手席に玲奈が乗り込むと、黒塗りのミニバンは意外なほど静かに発進した。車内には上品なジャズが流れている。
「奥様、ここからですと、現地は街の中心部を挟んだ反対側のエリアになりますので、少々お時間を頂きます。しばらくのあいだ、どうぞおくつろぎ下さい」
そう言って、江島(えじま)と名乗った不動産屋は、ステレオのボリュームを上げた。玲奈より少し若い世代のようだ。大きな体に、高そうなスーツが似合っている。
しばらくすると玲奈は、下半身に違和感を覚えた。
「この車、音楽に合わせてシートが震えるんですか?」
「ええ、そうです。シートそのものが大きなスピーカーの様な構造になっておりましてね、音楽に包み込まれるように設計されているんです。あ、でもご不快でしたらスイッチをお切りいたしますが……」
「いえいえ、気持ちいいのでこのままでお願いします」
ドラムの脈動が小気味よく尻を揺すり、ウッドベースの低音が、ズーン、ズズーン、と、腹の底に心地よく響く。
「スピーカーもいい音ですね」
「さすがですね。特別なチューニングをほどこしてあるんですよ」
コロコロと転がるピアノのパッセージが耳朶をくすぐり、悶えるようなサックスの息遣いは胸を揺さぶる。
なんとも官能的な音響空間だ。
「ご主人のお噂はかねがねお伺いしておりますよ。まだお若いのに世界中から招かれて演奏なさってるそうですね」
「ええ、そうなんです。おかげであまり家におりませんのよ」
玲奈は小さく笑った。
「それはお寂しいですね」
夫の仕事の事、レッスン場の立地条件などの話をしているうちに、車は郊外の瀟洒(しょうしゃ)なマンションの駐車場に到着した。
「鍵を管理している事務所に行って参りますので、しばらくこちらでお待ちいただけますでしょうか」
「分かりました。よろしくお願いします」
江島は大柄な体を器用に折り曲げながら運転席を降り、前方の建物に向かって大股で歩き始めた。
「それにしても」
と、一人になった玲奈は呟いた。
「このシート、ちょっと震え過ぎじゃないかしら。気持ちはいいんだけど」
エンジンは掛かったままで、音楽はまだ続いていた。
「なんだかお尻がムズムズしてきちゃった」
苦笑いをして軽く座り直しながら、玲奈は自分の股間を見つめた。
「それに、胸の先端もジーンとしてるし。それもシートのせいかなあ。それともスピーカーの方?」
玲奈はフロントガラス越しに前方を見た。江島の大きな背中がまだ見えていたが、彼は程なく角を曲がった。
ふう、と一つ息を吐いた玲奈は、首を傾げながら自分の左胸を押さえた。
「江島さんにはもちろん言えなかったけど、まるで音楽に愛撫されてるみたいな感覚だなあ」
多彩に変化しつつ繰り返されるドラムの律動が、シートを通して玲奈の尻を揺さぶり、ベースの音が、下腹部の奥に深く響く。ピアノは耳たぶから首筋にかけてをくすぐり、サックスの熱い吐息が胸の先端をチリチリさせる。
「なんというか……アブナイ感じのする音楽ね」
玲奈はそう言って少し笑った。江島はまだ戻ってこない。
音楽は、いつの間にかシンプルなメロディーとリズムの繰り返しへと変化していた。その単調さは、まるで催眠術に掛けるかのように玲奈の思考を痺れさせていった。
「ちょっと眠くなってきちゃったな」
包み込み、身を揺する音のヴァイブレーションが引き起こす酩酊に、玲奈は引きずり込まれつつあった。まるで、音楽という見えない手による愛撫を受け、悦楽に落ちていくかのように。
「トイレに行きたい時みたいに、なんだかムズムズするし」
彼女は心拍の高まりを感じた。更には息が荒くなり、頬に朱が差し……。
左胸を押さえている右の手のひらが、その膨らみをギュっと握った。
「ん……」
自らが漏らした淫らな声に誘われたかのように、玲奈の右手は更に胸を揉みさすり始めた。
僅かに残った理性が、江島が帰ってくるのを警戒してフロントガラスの向こうに視線を投げさせた。彼の姿はまだ見えない。
「最近、少しご無沙汰だったからなあ」
霞の掛かった様なぼんやりとした思考の中で、誰かがそう呟いた。
玲奈は、青いサテン地のブラウスの、上から三つ目のボタンを外し、右手を差し入れた。そしてそのままブラの下に指先を侵入させ、どうしようもないほどに硬くしこった乳首を撫でた。
「あはぁ……」
もう指は止まらない。疼く乳首を転がし、つまんでこね回し、爪を立てた。
「私、こんな所で何を……」
そう言いながらも、左手がベージュのフレアスカートを捲り上げ、剥き出しになった白くムッチリとした太股の上を這い、ついには純白のパンティのクロッチ部分の中央に浮かんだミゾを、スーっ、となぞった。
「ああ……ダメ、ダメよ。いつ江島さんが帰ってくるか分からないのに」
目だけはしっかりと前方を見据えている玲奈の指先が、パンティの左の淵から侵入し、中で蠢き始めた。
「ダメ……だってば……うぅ……」
玲奈の瞳はトロンと鈍い光を灯し、唇は緩んで一筋の涎が垂れている。ときおり腰がビクンと跳ね、太股はどんどん開いていく。
パンティの中の指は、上下に大きく移動しながらモゾモゾと細かい動きを繰り返し、ヌチャヌチャと湿った音をたてている。
「はあ……はあ……ああっ……」