見られてる-2
玲奈は自分自身によって与えられている快感にどっぷりと浸かり、悦楽の沼でもがき始めていた。もはや、そこから抜け出すことなど出来はしないだろう。胸を揉みしだき、乳首を苛め、潤いに満ちた谷間に指を遊ばせる。それ以外のことなど考えられないくらいに体は芯から疼き、欲情しているのだから。
「ああ、ああ、い……イってしまうわ、このままじゃあ私、郊外のマンションの駐車場に停めた車の中で、自分で……い、い、い……」
胸を揉む右手も、股間を責め立てる左手も、際限の無い加速とともに動きを大きくしていった。
「イク、イクわ、はあ……はあ……はあ……、私、い、い、イク、イっぐぅ……」
ガチャリ。
不意に運転席のドアが開いた。玲奈は一瞬で胸とパンティから手を引き抜いたが、既に上り詰めてしまった体を止めることは不可能だった。
涙を浮かべながら、ガクガクっ、と腰を跳ねさせ、ゾワゾワーっ、と全身に微細な震えを走らせて、玲奈は硬直した。
「奥さん……」
玲奈は眉を寄せ、歯を強く食い縛って、江島に向かってぎこちなく首を振った。
「ぐぅ……」
反り返った喉から苦しげな息が漏れた。
やがて、玲奈はガクリ、と一気に脱力し、車のシートの上でグッタリとしてしまった。
荒い呼吸がすすり泣きに変わる頃。ようやく玲奈は声を絞り出した。
「見られて……しまいましたわね」
江島はまっすぐに彼女を見つめて答えた。
「ええ、見ました」
「私、なんてことを、なんてことを……」
泣き崩れる玲奈。
「軽蔑なさいますよね」
そう訪ねた玲奈に、江島は意外な返答をした。
「しませんよ。だって……予定通りだから」
玲奈は顔を上げ、ポカンと口を開いた。
「予定?」
江島はゆっくりと運的席に座り、エンジンを切って音楽を止めた。
「三角波(さんかくなみ)、というものをご存じでしょうか?」
小さく首を振る玲奈。
「海の上で、いきなり巨大な波が立つ事があるんですが、それが三角波です。簡単な仕組みを説明すると、複数の小さな波のピークが一カ所で積み重なって大きな波となり、巨大なパワーを発揮する現象です」
「はあ……」
玲奈はワケが分からない、という顔をしている。
「海の波は水の振動ですね? そして空気にも振動現象がある。音、です」
「まさか、あの音楽は……」
「そうです。スピーカーから発する音波を調節して、奥さんの感じやすい部分にピンポイントで三角波をたて、刺激し続けました。シートの振動でお尻を揺さぶりながら、ね。更に言うなら、音楽にも仕掛けがしてあるんです。脳の、性欲をコントロールする部位を興奮させるような周波数とリズムをふんだんに仕込みました。脳内への刺激と体の外からの刺激。内と外の二面攻撃というワケです。結果、奥さんは見事に欲情し……あとはご自身が一番よく知ってらっしゃる通りです」
眉を寄せ、呆然と江島の口元を見つめていた玲奈がゆっくりと口を開き、もっともな質問をした。
「いったい何のためにそんな事を?」
江島は含み笑いをしながら答えた。
「ご主人に見せるためですよ」
「は?」
彼が指さした先には、ルームミラーの横に設置されたドライブレコーダーがあった。小さな赤いランプが点灯している。
「全方位型と呼ばれるもので、周囲の全てが録画されます。全てが、ね」
玲奈の顔から色が消えた。
無言で頷いた江島は、自分のスマホの画面を見せた。
「録画するだけじゃなく、リアルタイムにスマホに飛ばして見ることも出来るんだぜ」
突然口調を荒くした江島が見せた画面には、玲奈が自分を弄くり回して快楽に顔を歪めている姿が、鮮明に映し出されていた。
「コレをご主人に見せたら、どう思うんだろうなあ」
スマホを振ってニヤける江島。
「幸弘さんが、私がこんな所で自分でしてしまったのを見る……」
玲奈は、下腹部の奥深くが、ジン、と痺れるのを感じた。それは初めての感覚では無い。むしろ懐かしさを伴っていた。
彼女は思い出してしまったのだ。十年以上も前に行われていた、加際教授と幸弘と自分の三人で行われていた、歪んだ儀式を。
「え……?」
気付くと、江島が玲奈の胸を撫でさすっていた。
「な、何をなさるの!」
その手を払いのける玲奈。
「奥さん、ドライブレコーダーはまだ作動中だ。つまり、俺が今からあんたを犯したら、それも旦那さんは見るってわけだ」
「あなたに犯される所を、あの人に見られる……」
再び下腹部の奥深くに甘い痺れを感じた玲奈は、もう江島の手を止めなかった。
ブラウスのボタンを全て外され、ブラのホックを弾かれた。ボロン、とこぼれ出た白く艶めかしい大きな肉の塊は、小娘の頃とは比べものにならないくらいに熟れていて、大人のオンナの色香を放っていた。
赤く腫れた乳首はもうコリコリに尖っており、江島を自ら求めるかのように突き出ている。
「人が来たらどうするんですか」
トロンとした目で訪ねる玲奈に、江島は馬鹿にしたように眉を歪めて答えた。
「来ないさ。気付かなかったのか? 他に車は止まってないだろ。ここは分譲直前に、開発した会社が倒産して放置されたマンションなのさ」
そうですか、と気のない呟きを漏らした玲奈の唇を、江島が乱暴に奪った。
「ん、んぐ……」
強引にねじ込まれた舌が玲奈のそれに絡みつき、唾液を注ぎ込んだ。彼女は眉を寄せたが、逆らおうとはしない。その代わりに、眼球が動いてドライブレコーダーのレンズを捉え、小さく微笑んだ。その向こう側に居る人物に、何かメッセージを送るかのように。