投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

陽炎の渓谷
【寝とり/寝取られ 官能小説】

陽炎の渓谷の最初へ 陽炎の渓谷 2 陽炎の渓谷 4 陽炎の渓谷の最後へ

奪われた恋人-1

 その日、幸弘はピアノのレッスンを受けるため、加際(かさい)教授のレッスン室に居た。
 といっても、彼はまだ音大の学生ではない。来春受験予定だ。
 音大を受験する場合、その大学に在籍する教授かその弟子に師事するのが一般的だ。逆に言えば、志望大学の教授の門下に入っていない受験生には、ほとんどチャンスは無いというのが現実である。受験前に合格者はほぼ決まっているのだ。
 そのため、幸弘も志望する音大の教授である加際に知り合いの紹介で入門し、数年前からレッスンを受けている。
 しかし、門下に入れば即合格、というわけではない。実力の無い者を入学させてしまっては、教授自身の評価に響くからだ。
 だが、それなりの腕前の弟子が複数いて、誰か一人しか入れないとしたら。その選択は当然ながら教授に委ねられることになる。
「おかしいなあ、時間まちがえたのかなあ」
 教授はまだ来ない。手持ち無沙汰になった幸弘は、部屋の奥の、資料棚で囲まれたスペースに入り、楽譜をあれこれ物色し始めた。
 しばらくすると、ガチャリ、とドアが開いた。
 資料棚の陰から出ようとした幸弘は、思わず急ブレーキを掛けた。教授に続いて青川(あおかわ)玲奈が入ってきたのが、楽譜の隙間から見えたからである。
 ああ、やっぱりまちがえたんだ、この時間は青川さんのレッスンなんだ、そう思った幸弘は、なんと言って謝ろうかと考えながら歩き始めた。
 しかし、教授と玲奈の様子がなんとなく普通ではないことに気付き、すぐに立ち止まった。
 教授がドアに鍵を掛けた。やはり何かおかしい。
「青川くん」
 加際教授がいつもどおりの穏やかな声で玲奈に語りかけた。二人は資料棚の陰に居る幸弘に気付いていないようだ。
「今の実力では合格は難しいという事は分かったね?」
「はい、先生……」
 玲奈の声は消え入りそうだ。
 教授はゆっくりと頷いた。
「地元では天才少女ともてはやされたかも知れないが、君程度の実力の者はいくらでもいるんだよ。残念だけど」
 玲奈は息をのんで顔を歪めた。
「頑張ります、私、頑張りますから……」
 すがるように訴える玲奈を冷めた目で見つめ、教授は静かに告げた。
「頑張るなんて最低限だよ。みんなやってる」
 幸弘の胸に、重い気分が落ちた。
 レッスン場で知り合った玲奈とは、いつの頃からか互いにほのかな想いを寄せ合う仲になっていた。二十歳に近い年齢であるにしては奥手な彼らは、キスはおろか手をつないだこともなかったが、一緒に居るだけで幸せを感じていた。
 そんな二人は、共に音大で過ごす時間を夢見ていた。
 なのに、玲奈は合格が難しいらしい。一緒に入学出来ないかも知れないという現実に、彼はやりきれない思いをいだいた。
「でもね」
 教授が少し声色を明るくして話を切り出した。
「可能性がないわけじゃないんだ」
 最近切ったばかりのショートヘアをサラリと揺らして、玲奈が顔を上げた。僅かな希望の光がその瞳に灯った。
「来春、私の所から受験するのが四人だという事は知っているね?」
「はい」
「そのうち、立野幸弘くんはダントツで優秀だから、入学は確実だ。そして、私の持っている合格枠は二つ。つまり、残りの三人で一つしか無いポジションを奪い合うということになる」
 幸弘は他の二人の顔を思い浮かべた。彼が思うに、どちらも玲奈と比べて僅かにレベルが高い。
「どうすれば……私はどうすればいいんでしょう?」
 教授は、玲奈の決意の程を推し量るように鋭い目で見つめながら、ゆっくりとした口調で彼女に告げた。
「簡単だよ。青川くん、服を脱ぎなさい」
「……は?」
 玲奈は一瞬、何を言われたのか分からなかった。しかし、その意味が脳内で理解されていくにつれ、彼女の顔はこわばり、色を失った。
「何を……言ってるんですか、先生」
 冗談であってくれ。幸弘と玲奈は同時にそう願ったが、その思いは叶わなかった。
「君はかなりの美人だ。そして若い。その肉体を、自分のものにしたいと思わない男がいると思うかね?」
 玲奈は言葉も出せずに唇を震わせている。
「さあどうする? ピアノをあきらめるのかね、それとも……」
 五十を既に超え、薄くなった頭部を脂ぎらせた教授が玲奈の顔をのぞき込み、諭す様に語りかけた。
「君の家はあまり裕福ではないんだろう? それに、自分で言うのもなんだが、私のレッスンは安くない。もう一年、私のレッスンを受け続ける経済力はあるのかい? かといって、君がピアノをやめてしまったら、支えてくれているご家族はどう思うだろうねえ」
 玲奈は口をキュっと結び、決意の目で教授を見た。その瞳は濡れている。
「……何をすればいいんですか、先生」
 決意はしたものの、何をどうしたらよいのか、男性経験の無い玲奈には分からないのだ。
 教授は眉を上げ、大げさに両手を広げてみせた。
「なんだって? 男に体を求められた女がどうすればいいのか分からないって言うのかい? そうか、君はまだ処女なんだね。立野くんと付き合ってるとはいっても、まだ何もしていないのか」
 小さく頷く玲奈。口の端に笑いを浮かべる教授。
「大丈夫。君は僕にされるままになっていればいい。心配いらないよ。ピアノだけでなく、女の悦びを優しく教えてあげるから」
 玲奈を助けなければ。そう心を焦らせながらも、幸弘の足は動かなかった。自分の恋人が、脂ぎった中年男の言いなりになって処女を奪われようとしているのに、だ。


陽炎の渓谷の最初へ 陽炎の渓谷 2 陽炎の渓谷 4 陽炎の渓谷の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前