白香語り(7)-2
だが――。数日後の午後、そろそろ桃香の集中調教期間が終わる頃だった。
その日は桃香の誕生日だった。外は、雨が降りだしていた。わたしは、桃香をまた「ねこみみ化」して可愛がってあげようとしていたのだが、そうする段になって、
「あ、そうだ、忘れてた」
と、あることを思い出した。それで自室に取って返し、紅香から託された花束を持ってきて、桃香に手渡した。赤いアマリリスがメインの、華やかな束だった(赤い‥‥というのは、お花にはうといわたしの大雑把な言い方で、本当はもっと的確な、専門的な言い方があるのかもしれない。お花に関しての知識は、好きなだけあって、紅香のほうがわたしよりも全然ある)。今日の誕生日に桃香に渡してほしいと、紅香から頼まれていたのだった。
「お姉ちゃん‥‥?」
突然わたしが親切になったのが不審なのか、桃香はまさに子猫のような無垢な顔で、わたしを見上げた。
(え‥‥? な、なに、コレ‥‥?)
わたしは、戸惑った。なぜだか、胸が痛んだのだ‥‥。
(うー‥‥)
わたしは、その痛みを振り払うかのように、
「わたしじゃないわよ。紅香から。誕生日おめでとう、って」
と、つっけんどんに言った。が、桃香は、そんなわたしの乱暴な口調など気にする様子もなく、
「わあ、綺麗‥‥」
と、色彩豊かな花束を裸の胸にかき抱くようにした。そして、まるで本物の天使のような表情を見せ、わたしの胸を痛ませたのだった。
(うう‥‥)
苦しくなったわたしは、気がつくと、
「そんな、天使みたいなカオしてるけど、オッパイ丸出しじゃ、いやらしいだけだよ、桃香」
と、そんな下手なことを言っていた。しかし、紅香になら通じるであろうそんな言い方も、桃香には通じなかったようだ。桃香は、幼くも形よいEカップの乳房の前に華やかな赤い花束を抱えて、
(どうして、そんな言い方をするんだろう‥‥)
というような、きらきら光るつぶらな瞳で、わたしを見つめた。その無垢な視線を受けたわたしは、己の内の、悪魔の力が、
(う‥‥失われてゆく――)
と、そんな喪失感に襲われてしまったのだった。
(く‥‥。これだからコドモは‥‥!)
わたしは強くそう思い、何故か舌打ちまでしていた。そして、
「いいから、それ置いて。さっさとねこみみセットをつけな。たぁっぷり、可愛がってあげるから」
と、またなぜか乱暴に言っていたのだった。