☆-6
「お。早いじゃん」
入ってきたのは息を荒くした阿部さんで
「はぁ?何言ってんだよ?意味分かんねーんだけど。
村田さんから電話があって、昨日の子がここで泣いてるって」
「あってんだろ?」
「なんで村田さんが鈴木さんを知ってんだよ」
「あ〜それは俺が昨日の事を村田さんに言っちゃったから」
「言うなよ!」
「え〜だって昨日の阿部、面白かったんだもん」
マスターが楽しそうに、阿部さんが機嫌悪く話をしている間に
私はそっと涙を拭いた。
「だって、阿部ってば今日もかけてきたんだろ?」
「・・・・タクシーが捕まりそうになかったんだよ」
「まさか家からかけてきたのかよ?」
「・・・・わるい?」
「いや。スゴいね。鈴木さん。阿部を1駅分走らせたらしいよ。阿部、仕事とジム以外で走ったの何年ぶり?」
「うるせーな」
「息が上がってるけど?」
ニヤニヤ笑うマスターに
「水くれ!」と私の隣にドカッと座った。
「で?鈴木さんは土曜日の夜に何でこんな店に居る訳?」
「こんな店で悪かったな」
「なんとなく家に帰りたくなくて」
ボソッと言った言葉に2人は黙り込んだ。
「あ、でももうマスターに話を聞いてもらったから平気です」
そう立ち上がった私の手を阿部さんが優しく握った。
「帰りたくないなら・・・オレんち、来るか?」
「え・・・」
カチッと音がして
マスターが煙草に火を付けた。