ト-3
文句を言いたい事は山ほどあって
色々な事を許していた私は
阿部さんの言うようにさっさと別れていればよかったのかもしれない。
文句を言ったところで、この関係が修復される訳もなく
私のみじめな気持が払しょくされる訳でもなく
私はキッチンに置きっぱなしの麦茶を思い出した。
ため息をついて涙を拭いて
ゆっくりと立ち上がって麦茶をとりに行く。
一口飲んで、喉をうるおしたら言葉が出るようになった。
「それで?」
冷静な私は意外だったのか
少しびっくりしてこーちゃんが今後の事を話し始めた。
「俺の我儘だから、一緒に買った家具や電化製品は全部真由花が使って」
「それで?」
「なるべく早く出ていくよ」
「・・・・」
「ごめん」
「分かった。家具や電化製品は私が貰う」
「うん」
少しホッとしたようにこーちゃんが笑った。
罪の意識を少し手放せたように。
「あと。今日からベッドで寝ないで」
「え・・・」
「まさか別れるのに、引越しの日まで同じベッドに寝る訳ないでしょ?」
思い切り強がった言葉に
もう、セックスレスに悩まされなくていいんだ。
と、こーちゃんと私の両方にほんの少しの安ど感が広がった。
「そう、だな」
「そこのソファーで寝て」
「・・・分かった」
セックスレスは私が自分で思っているよりもずっとずっと私の心に重くのしかかっていたらしい。
つい数時間前まで愛していた男は
今は見知らぬ他人のようで。
「おやすみ」
それだけ言って私は飲み終わったグラスをシンクに出した。
こーちゃんの方は1ミリも視線を向けずに私は寝室に入ってその場に座り込んだ。