人形が人間だったころの話。-4
美術室が、荒らされている。
彼の聖域が、荒らされている――
いじめのグループの主犯である古谷を、私は無感情に見ていた。
何やら言い訳しているけど、聞こえない。大事なのはそんなことじゃない。
無様に吐いて倒れている深町君の方が、何よりも大事なのだから。
「帰りなさい」
いじめグループは珍しく大人しく帰っていく。今の私がどういう顔をしているのか、よくわからない。
「深町君」
この感情を、なんと呼ぼう。
「い、いいんです。僕、こんなだから、弱いから、どうしようもないから、ダメな人間だから」
気付けば、抱きしめていた。
「そんなこと言わないで」
涙を流していることに、気付かなかった。
「深町君はずっと綺麗で純粋で、素晴らしいものを持ってる!!」
何もかもが、愛おしい。
欲しかった。深町君のすべてが。
唇を奪うことは、“私”にとって当然のことだった。
「深町君のことが、好きなの」
女として――
そこまで言って、“教師”である私ははっと気づく。
「ごめんなさい、忘れて」
「ま、待って、待ってください!!」
聞いたこともないほど必死な声に、思わず振り返る。
「先生は教師かもしれないけど、僕は生徒だけど、でも、それでも、僕は先生のことが……!」
好きなんです。
「……深町君……!」
この感情を、なんと呼ぼう。
そうして私達は、“普通”の生徒と教師じゃ、なくなった。