あなたは紅香と‥‥。(7)-1
約十五分後‥‥。
背後でドアが閉まり、あなたは蒲生三姉妹宅から退出した。
別に、彼女・白香に気づかれたわけではない。ただ、
「あ‥‥もうこんな時間?」
と起きた彼女は、
「海田くんも疲れてるでしょ」
と、あなたに帰ることを勧めたのだった。それは、あなたを気遣うような物言いであったが、そうしてほしい本心が、透けて見えた。
繰り返すが、先刻までのあなたの挙動を、悟られたわけではない。その証拠に、蒲生白香は別に怒りもなにもせず、ただ他に大事なことがあるという感じを見せて、何やら人を迎える準備を始めたのだった。「片桐」という人物が来るのだと‥‥。彼女はそうは言わなかったが、「導入」される男であることは察せられた。
帰ろう、とはあなたも思っていた。しかしどうも、
あなたが外に出ると、その片桐という男が、エレベーターで上がってきた。あなたはすれちがったが、眼鏡で中肉中背の地味な男だった。四十歳くらい、地味な感じで、風采の上がらない――と言っては失礼だろうが、正直言って、そんな感じの人間だった。あなたに興味を示すことはなく、あなたが蒲生三姉妹宅から出てきたことにさえ、気がついていない様子だった。
マンションの廊下の、外の景色が見渡せるところまで来ると、空はもう
一番星かはわからないが、その空にかすかに瞬く白い星がひとつ、ちょうど真正面に見えた。
――――‥‥。
おそらくあの片桐という男が乗ってきたであろうエレベーターで一階に降りたあなたは、ふたつの自動ドアをくぐり、蒲生三姉妹宅の入る高層タワーマンションの外に出た。
夜へと向かう住宅街を、あなたはひとり、歩いていった。
(紅香‥‥)
あなたは、彼女に逢おうと考えたことを思い起こしながら、しかし、
(でも‥‥。逢って、何を話せばいいんだろ――?)
と、迷いに襲われていた。
(うーん‥‥)
あなたは、いま一度考えてみた。短いが、彼女とのこれまでの日々を振り返って。
紅香は、あなたの一学年下である。だが、子どもっぽいあなたと較べて、彼女はどこか大人っぽかった。これでもかとあなたを挑発してくる、たっぷりとふくらんだ巨乳ぶり――ぽよんぽよんと音さえしそうだった――に顕著な、充分に発育したボディもそうである‥‥。が、精神的にもそうだと思えた。
(とにかく、紅香だ‥‥。紅香に――)
あなたはスマホを取り出し、彼女の番号を出したのだった。