あなたは紅香と‥‥。(7)-3
あの女、蒲生白香は、あなたにとって、いわばリアル世界での上位陣プレイヤーのようなものだった。己の利益しか眼中になく、他人を数字として見、道具として使うことに、なんの痛みも覚えない種類の人間。このまま何も
(それに‥‥)
あなたは、彼女との出会いの日を思い起こしていた。
「いや、抑えておいてくれないと、この仕事は任せられないな――」
あなたにそう言い含めたあのとき、白香はこうも言ったはずだ。
「わたしたち姉妹以外の誰にも話さない。それは約束する」
と‥‥。そして、あなたにも他言無用を求めたはずだ。
では、あの男はなんだ。あの片桐という男がどういう人間にせよ、あなたと同じく「導入」するということは、同じく計画に巻き込むということであろう――ということは、少なくとも一部は、口外しているだろう。
(‥‥‥‥)
約束は、いつの間にか巧妙に破られ、既成事実となっていた。いや、されていたのだ。彼女、蒲生白香によって。
あなたは、どうするべきなのか。
(‥‥‥‥何か――行動を起こさなきゃな‥‥)
そう思い立ったあなたであった。そう感じたのだ。痛切に。
あなたはこれまでの人生で、何が苦手といって、「決断」というものほど苦手で、忌避したくなる衝動を覚える行為はなかった。いつも、人生の重要な局面、岐路に立たされると、判断をやめ、他人に委ねてきた。いつも、だ。それが、現状の体たらくであると言えた。
(もう一度、紅香に会おう。この前のように電話をかけて、逢う‥‥いや、逢えなくても、電話だけでも、いい。それに――すぐに、じゃなくてもいい‥‥)
あなたは考えた。白香に叛旗を翻す決断。それをしなければならないとなると――。
(いや、待て待て。叛旗じゃなくてもいい。そんなふうに大袈裟に構えることはない。疑問、だ。白香への疑問を、紅香に話してみよう。それで、事態は好転するかもしれない‥‥)
とはいえ、そういった行為とて、まかり間違えば白香の怒りを買うだろう。紅香は自分の味方をしてくれ、白香に話すことはないと思いたい。が、女子校生だけでひとつ屋根の下に住む、姉妹同士であるのだ。そうなる可能性はゼロではない。
しかし、その一歩を踏み出さなければ、事態は現状のままで、好転することは決してないであろう。
あなたに、踏み出す勇気は、あるだろうか‥‥‥‥?