第三話 悪魔撃墜-6
≪終 章≫
「どうしたんだ!」
通報を受けた警察官が駆け付けた時、辺りは血の海、男は腹を切り裂かれ、虫の息だった。
雪江は近くの飲食店の女将に毛布で体を包まれ、保護されていたが、中上、牧、吉田の姿はなかった。
救急車が到着し、担架に乗せられ運ばれていく男を見た刑事たちは「石上正一だな」、「ああ、間違いない」と小声で囁いていた。
事情聴取のため所轄警察署に呼ばれた雪江はタバコを一服すると、「あの男がいきなり店に入ってきて、殴られました。隙を見て逃げ出しましたが、後のことはよく覚えておりません」、目撃していた盛り場の飲食店の者たちも「雪江さんを助けるのに夢中で、何があったか見ていないんですよ」と中上ら3人のことは決して口にしなかった。
「何があったんだ?人が1人死んでいるんだぞ」
「いったいどうしたんだ?」
捜査員たちは苛立ったが、「自業自得だ!」と吐き捨てる刑事もいた。
署内の反応はこのように様々だったが、防犯カメラで事の一部始終を確認した署長、副署長は「なるほど、そう言うことか」と言ったきり、その後に開かれた捜査会議には出席すらしなかった。
記者会見でも、「通り魔による犯行で、目撃者もなし、ということですか」との問いに、「はい。そういうことです」と答えたのみ。記者側もそれ以上の質問もせずに終り、翌日の新聞には「行き倒れか?事件性はない模様」と簡単な記事しか載らなかった。誰もが、被害者のプライバシーを大切にし、悪魔、石上正一は社会から抹殺された。
「しかし、事件を起こさせないということについては、反省すべきことが多々ありだな」
捜査本部解散後、報告に来た副署長と担当刑事を前に、署長は半年前からの不審事案リストを広げていた。
野球帽を被った40歳くらいの男
180cmくらいの大柄な男
「全て石上正一の特徴と一致していたな」
「仰る通りです。日頃の地域巡回時にもう少し目を凝らしていれば防げた事件です」
「苦い経験だが、これを活かさねばいかんな」
「はい。署員全員に徹底します」
「そうだな。頼むぞ」
二人が出て行った後、署長は残っていたお茶を一口啜ったが、旨いものではなかった。
(了)