マカオに沈んだ榊亜希子の悲劇-9
≪マカオ≫
その後、榊亜希子の切り刻まれた衣服や携帯電話は廃墟の古民家で発見されたが、消息は全くつかめなかった。
「借金の形に水商売に売り飛ばされたらしい」との噂を耳にした彼女の夫はあらゆる歓楽街、風俗街を探し回ったが、手掛かりは何も得られなかった。
2年後、私立探偵の風間はマカオに来ていた。彼がここに来るのは3度目だ。
最初は来たのは5年前。時々、新宿の裏カジノに出入りしていたが、「ラスベガスは遠い」、「韓国はイマイチ」、「やっぱりマカオだよ」と遊び仲間に誘われてだった。
ビギナーズ・ラック!まさにその通り。たった数時間で財布は数ケ月分の稼ぎ以上に膨らみ、その興奮はホテルに戻っても収まらなかった。
「風間ちゃん、サウナにでも行って冷ますか?」
仲間が笑いながら連れて行ってくれたのは、名前は「サウナ」だが、マカオは売春が合法だから、日本のように汗を流すだけのところではなかった。
アジア、アメリカ、ヨーロッパ、まあ、よくもこんなに揃えたものだと感心するくらい、世界中の女がいる。勿論、日本の女もいた。
「風間さん、助けて下さい!」
万策尽きた亜希子の夫が探偵事務所に駆け込んできた時、話を聞いてピンと来たのが、やはり、このマカオだった。
「マカオで同じような境遇の女性に会ったことがあります」
「えっ、本当ですか?」
「あ、いや、単に似たような話ですが」
「いや、それでもいい。とにかく調べてもらえませんか?」
藁をも掴む≠ニはこの時の彼のことを言うのだろう。必死で、とても断れるような雰囲気ではなかった。
「でも、マカオだって証拠もありませんし、お金も掛かりますし…」
「か、金なんかどうにかします。お願いです。マカオに行って、調べて下さい」
「いや、しかし」
「そんなことを言わず、お願いします。亜希子を、亜希子を見つけて下さい!この通りです」
そして、頭を下げ続ける亜希子の夫は「お願いです」と言ったきり、「うぅぅ…」と唸るような声で泣いていた。
結局、風間は夫の頼みを受け入れ、榊亜希子の写真を手に、再び、このマカオにやって来た。