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THE UNARMED
【悲恋 恋愛小説】

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THE UNARMED-23

「レイチェル!」
(危ないッ)
レイチェルを襲う、矢。
俺は馬を駆った。
そしてとっさに伸ばした俺の右腕に、一本の矢が刺さる。
「くッ」
瞬間、俺の身体が馬から転げ落ちる。
はっとしたようにレイチェルが見やるが、俺は怒鳴った。
「早く行け、早く!」
そう声を上げた後、俺は素早く矢を抜いて傷口を吸った。
くそったれ、もう毒が回り始めてやがる。
右腕に痺れる感覚を覚え、俺は舌打ちした。
(くそったれ……!)

――そしてそれは、所謂既知感(デジャヴュ)と言うやつだった。

敵が迫って来て、俺に向かって剣を振り上げる。
俺は絶体絶命を感じ、目を閉じる。
しかしやはり衝撃はやって来ない。
薄っすら目を開くと、俺を庇うように奴は立っていた。
どうして……どうしてなんだ。
レイチェルは精一杯に両手を広げ、俺の代わりに敵の剣を受けていた。
背中から突き出た切っ先――そこから赤い鮮血が滴り落ちる。
刹那、嫌な音と共に敵兵の首が元の場所から転がり落ちた。
その音に、急に現実に引き戻されたような感覚を覚え、俺は倒れ込むレイチェルを抱き留めながら言う。
「ば……」
思わず震えた声が出そうになるが、それを飲み込んで叫ぶ。
「馬鹿野郎! 俺のことなんか構わずに行けよ! どうして……」
そして、次に出た言葉は震えていた。
「どうして、戻ってくるんだ……!」
俺の腕の中で、レイチェルはこんな状況なのにもかかわらず口元に笑みを浮かべていた。
笑みを浮かべたまま、苦しげに息を吐きながら言う。
「お前をみすみす殺させるなど……」
「ガルム!」
レイチェルの小さな声を、サバーカが遮った。息を切らせ、馬上から俺に言う。
その手には、敵兵の首を斬ったのだろう、鮮血に濡れる剣があった。
「ガルム、行くぞ」
「………」
「俺は、先に行っているから」
黙り込む俺に、そう声をかけて。
「……後で必ず来るんだぞ!」
去って行く奴の背を一瞥して、俺はレイチェルに視線を戻す。
辛そうな表情のレイチェルを、俺は痺れる腕で抱え上げた。
「なあ、ガルム……出陣の三日前」
「お前が私を認めてくれたこと……嬉しかった……」
そう言ったレイチェルの表情は、言葉通り、嬉しげだった。
「……幸せだった、お前と分かり合えたこと……お前と共に過ごせたこと……」
段々と小さくなって行く声に、俺は焦りを覚える。
レイチェル、と名を呼ぶと、奴はゆっくり頷いた。
「最後に……戦士として女として、逝けること……誇りに、そして幸せに思う」
「最後だなんて、言うな」
自分でも驚くくらいに声を震わせて言った俺を、レイチェルは笑った。
何て声を出すんだ、と。
そして大きく息をついた。
「……なあ、ガルム……私は……罪を犯したけれど、でも……」
額に汗を掻き、眉根を寄せながらも、レイチェルの声は穏やかだった。
ゆっくりとその瞼が閉じる。
「決して……後悔はしていない……」
そしてゆっくりと開いたその琥珀色の瞳から、一筋の涙が流れ落ちた。
掠れた声でレイチェルは更に口を開く。
桜色をしていた唇が、微かに紫色を帯びていた。
「……ガルム、私は……」
「もういい、喋るな」
震えるその細い指が、俺の頬をなぞった。
その手を握り返す俺の手もまた震えているのは、俺がその事実を認めたくないからだ。
「死ぬな……死ぬな、レイチェル」


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